第10章 実家
だけど、久しぶりに墨を磨って筆を握ったからか、信玄様の現代に来てからは見たことのないような、厳しい目になって
真剣に半紙に向かい、一文字一文字を力強く書いていく。
そして最後、自身の名前を書き上げると……
「いやぁー流石ですなー思わず息を飲んで見てしまいましたよ」
「書道のショーを見ているみたいだったわぁ」
「しょー?」
信玄様は何の事か解っていないみたいなんだけど
「久しぶりに筆を握って、なんだか懐かしい感じがして嬉しかったなー
さ、そちらの本にも書きましょう」
そうだよね、現代に来て、筆なんて使うことないもんね。嬉しい気持ち……なんとなくだけど、わかるな……
「実に素晴らしいなー!なんかお父さん、感動しちゃったよー」
「ほんと!ね!額を買ってこなくっちゃ!」
……まぁ、両親も喜んでるし……
「うわぁ!この本、めちゃくちゃお宝じゃない!?」
……本人直筆サイン本を手に、兄も喜んでいる。
うん。まぁ……いっか……
なんだかんだと楽しく過ごしていると携帯が鳴った。佐助君からだ。
「信玄様、佐助君からです」
「少し席を外して宜しいでしょうか?」
申し訳なさそうに、私の家族に気を使ってくれる信玄様。
「大丈夫ですよ、お気になさらずに」
父のその言葉を聞くと、二人でリビングを出て、佐助君からの電話をとった。
佐助君は、どうなったか心配してくれていたようで……
着信だけを残すつもりだったみたい。
でも、簡単に今の状況を伝えると、凄く喜んでくれていた。