第10章 実家
「ほう……なかなか立派じゃないか」
小学生の時に使っていた道具を見て、信玄様が呟いた。
「それは、この子の祖母が揃えてくれたんですよ。子供にこんな立派な物はいらないって言ったんですけどね」
母が嬉しそうに伝えている。
そう言えば、おばあちゃんが「これは一生物だよ」って言っていたような……
「そうですか、いや物も良いが、凄く丁寧に使っている。きょうこの性格がにじみ出ているようだ」
ニコッと微笑む信玄様。
そ、そんなに大層な物じゃ……なんだか照れ臭くなって話を変えようと、ふと目に入った物を手に取った。
「あ、これ……書き初めの半紙……」
ボソッと呟いたその声を、父は聞き逃さなかった。
「信玄君……すまないが、これにも……」
「署名ですか?」
「いや、出来れば……『風林火山』がいいなー」
照れたように信玄様に半紙を渡している!?
「お、お父さんっ!!!止めてよ!恥ずかしいっ!!!」
「そんな物でいいんですか?」
ニコッと受け取る信玄様……
「信玄様、断って下さい……もう、私が恥ずかしくて消えたいくらいです……」
信玄様を受け入れてくれるのは、ものすごーーーく嬉しいんだけど……家族がミーハー過ぎて、恥ずかしいっっっ!!!
「いや、それぐらい御安い御用だよ」
なんて言いながら、硯で墨を摺っている!?
「いやーこれもいい墨だなー」
って、信玄様めっちゃヤル気出してくれてるし……