第10章 実家
キッチンで母と二人になると
「いつか話してくれると思ってたから、聞かなかったんだけど……」
「……うん」
「あんた一人から聞いてもやっぱり説得力無かったかもね」
ふふ、と笑いながら母が言う。
「だよねー。私も何をどう伝えていいのか、解らなくて……でも信玄様が、帰る前にどうしても、って言ってくれて」
「帰る前に、か……一緒に行くのよね……」
「うん……」
「でも、こうやってまた会えるのよね?」
「しょっちゅうじゃ、ないと思うけどね」
……正直、その質問が一番辛い。だって、そんな約束出来ないから。
でも……今回が最後だとも思いたくなくて、そんな返事をした。
「ねぇ、きょうこ……信玄君の持ってきてくれたケーキなんだけど、凄い数じゃない?」
「そうなの!止めたんだけどね、少ないのは駄目だ!って聞いてくれなくて!」
「ふふ、時代が違うと色々違うよね、きっと」
「そうなの!大変な事も沢山あったよ!だけど……」
言葉が止まる。続きが出てこない……
色々な想いが私の中で交差する……
「信玄君が一緒なら、大丈夫ね?」
母が私の手を握って、目を見て言ってくれた。
私が大きくなってから……母の手なんて、触れたこともなかった気がする。
私よりも少し小さいけど、母の手の温もりは昔のままで……
「うん。あんなに素晴らしい人は、もう二度と会えないよ」
「そうよね、時代を越えて出会ったんだもんね。やだーなんだかロマンチックねー」
また、ふふふ と笑う母の目の縁には、少し涙が浮かんでいた。