第2章 デジャヴ
私の方を向いた山姥切と目があった。
エメラルドグリーン色は一瞬だけ見えて、また下を向いた。
「しかし、」
「今の主も、もう長く持たない。なぁ、旦那…代替りの時期は今なんだ。ハルカからは僅かではあるが、霊力を感じる。審神者なんてものは誰だって、これくらいから成長するもんだろ?」
山姥切は、自分の胸ぐらを片手でぎゅっと握りしめ、小さくわかったと返事をした。
薬研はそんな山姥切をみて、よし、と言わんばかりに頷く。
「で、だ。大将」
嫌な予感がする。
ふと山姥切の方を見ると、いつの間にか服装が変わっていた。白いパーカーはフード付きのボロボロの布へ、内側の服はスーツにも似てるような、でも普段着では見ない格好。
「あの、薬研くん?」
質問しても?と聞くと、薬研はいいぜと返事をしてくれた。
「なぜ、私の名前を知っているの?」
山姥切も薬研も、互いに顔を見合わせることもなく、なんだそんな事かと呆れたような表情になった。
「政府から名前と居場所を聞いたからだ」
「政府!!?」
日本政府に特定されるレベルで、私は目をつけられていたのかしら…?本当に、本当に悪いことをしていないし、超能力みたいなものはもっていない。
たかが、時々デジャヴをみるだけ。そんなの特別じゃないでしょう?
「政府って言っても、ここの政府じゃないぜ?
えーっと、過去や未来を守るための政府って言えば分かるか?」
そんなもんだろう、と山姥切は薬研に返す。
漫画とか映画みたいな政府もあったんだな、と私の中では半分納得しながら半分否定した。
「お家に帰らせて頂いても…?
あの、母が美味しい夕飯を仕込んで家族皆揃うの、待ってるんですよ。だから…」
薬研はにっこりと口元をだけ笑う。
「大将はこっちの家には帰ることは出来ねぇ。家は家でも、俺っち達の家に帰ってきてもらうぜ」
人攫いじゃないですか、それ。
なんで家に帰っちゃいけないの?と聞くまでもなく、今度は山姥切が続ける。
「神隠しにあった、という事で"ハルカ"はこちらの世界からは居なくなってもらう。そのかわりに、またここに用事で来る際には偽名を使ってもらう」
ここまで言わないと拉致監禁みたいで不安になるだろう、と山姥切が言うと薬研は悪いな、旦那と短く笑った。