第2章 デジャヴ
「早くしてくれ、死にたくはないだろう!」
謎が多いけれども、この青年は少なくとも助けてくれる存在であるというのは分かる。
自転車の後ろに跨がり、青年の腰回りに手を回す。何もない平和な時であったらドキドキしちゃう、甘酸っぱい青春の光景だったろうけど、今は疲労を訴える心臓がバクバクいってる。
すごいスピードで自転車は進む。ちょっと場違いだけれど青年からいい匂いがした。
「大将!」
後ろから少年が叫ぶ。振り向く暇も与えず、私の背に衝撃が走る。
「……っ!?」
痛さに青年に回した腕に力を込めた。
どうやら何か硬いものを投げてきたみたいだった。多分折れては居ない、多分。めちゃくちゃ痛いけれども、止まってなんて言えないし。
「何かあったのか!?怪我はしていないか!?」
青年は少し振り向いて心配する声をかけてくる。風に揺れて青年の前髪がきらきらと光る。金髪だった。
「なんか投げてきて、背中に当たった…」
その様子だと大丈夫そうだな、帰ったら手当してやると言って自転車を漕ぐのをやめる。
自転車から降りて後ろを見れば、少年一人で倒しきったのか、少年のみがこちらに走ってきていた。
「すまねぇ、大将!ちょっと怪我の具合見させてくれ!」
少年はかけてきて来ると、私の上着を脱がせてきた。これには私もされるがままなんて、無理だった。
「ちょっと!脱がせなくても大丈夫、」
「薬研!家についたらで良いだろう!?」
一枚向かれた私に、白パーカーは私に上着を投げつけて返却する。そして、少年…薬研は鼻で笑った。
「山姥切の旦那、家ってこっちのか?それとも本丸の方か?」
薬研は脱がせるのをやめ、服の上からその黒い手袋越しに背中を触る。痛い場所を触れ、ぐいぐいと突く。
「いっったいわっ!」
「打撲だ、大将。折れてなくてよかったな。
…で、どうなんだ?旦那?もう、こっちには"ハルカ"は居られそうもないぜ?
例えこっちで生き続けても、誰かしらずっと護衛し続けて生を全うするなんざ、非現実的だよなぁ?」
少年でありながら、言っていることは大人じみてて…いや、私以上に頭が良くて。
その薬研の言葉に青年…山姥切は黙った。