第7章 霊力
キッチンに近付くほどに、とてもいい匂いが漂ってくる。お昼の時間はまだ先、お昼の仕込みをしているんだろうな。
キッチンののれんが揺れて、キッチン側から飛び出してくる青い髪の子、太鼓鐘貞宗。
「お、なんだなんだ?もうお腹減った?」
その声に釣られて、燭台切がのれんを片手でめくってこちらを覗く。
「貞ちゃん、…おや?お腹を空かせて来たのかな?」
「確かにお腹は空いてるけど、今は歌仙ママを探してて」
太鼓鐘…貞ちゃんは燭台切を見て、じゃあみっちゃんはみつママだな!とじゃれ合う(どちらかというと性別上パパだけどね、と貞ちゃんに否定した)
この二人は刀だった時同じ主だったとかだろうか?
のれんから覗くみっちゃんの脇を通り、前髪をアップにした歌仙が出てくる。
「だから君を産んだ覚えは無いと言ってるじゃないか…!」
「えへへ、ついノリで…?」
ちょっぴり眉を吊り上げた歌仙の側に寄って、耳打ちしようと試みる。少しだけ体を傾けてくれたので話すことが出来そうだ。
「朝、聞くのを忘れたんだけれど、私の洗濯物はどこに干してあるんです?」
ああ、と納得して歌仙は首筋を掻く。自身のふわっとした髪が当たったのかなぁ。
「君のものは脱衣所に干してあるよ。女性の審神者だからね、男所帯には刺激があるだろうし…歴代の主も若いうちは脱衣所で干していたんだ。
ちなみに照明の他に、乾燥のスイッチがあってね、室内干しする時は必ずつけるように」
きっと怒るだろうけど、心の中でママだ…!と感激しつつ、ありがとう!とお礼をしてもう一つの用事を思い出す。
「そうだ!部屋に誰か来た時様に、座布団が欲しいんだけれど余っていない?」
「座布団、ねぇ…。刀剣男士が新しくやってくるから余計にはあるけれど、急ぎではないのなら買い出しの時に言えば良いんじゃないかな?」
歌仙が答えるよりも早く燭台切が答える。
まあ、急ぎではないけれど来客は急だしなぁ。あればいいくらいで…。
その時、私の後ろからあるじーっと呼びかける声があった。振り返れば走ってきた加州と安定。
「なーんだ、やっぱり歌仙はここじゃん!」
「なんだ、とは何かな?加州」
そんなやり取りをキッチンと大広間を分けるのれんの前でやっていれば、加州と安定の後ろからもう1人。
少し浮かない表情の長谷部だった。