第2章 デジャヴ
夕日に照らされた土手の草原を、斜めに走って駆ける。
私の急な動きにスイッチでも入ったかの様に、前方のモノ達も降りてくる。凄く距離を詰められたけれど、私の背後には3人とちょっと後ろに2人と1匹がいるはず。
それで気が付いたんだけれど、体を左右に揺れ動いていたのは、鎧みたいなものがきっと重いせい。かちゃかちゃと今も私の背後で聞こえてくる。
「ハァッ…ハァッ…、ハァッ…!」
あの骨、体格良いのもあるし私が女ってこともあるんだろうけれど、少しずつ距離が詰められている。
時々風を切るような鋭い音が聞こえてちょっとだけ振り向いたら日本刀を振っていた。
私が何をしたんだろう?殺されるような事をした?
こんな体力で川を渡るのは厳しい、川の中の石につまずいて転ぶか、川に入ってすぐに追いつかれて斬られるのがオチでしょう。
それでも希望に縋りつく。だって、今の状況は夢に見た事が現実になっているのだから。
そう、夢の事が本当ならば。
夕日の届かない、道路の下。橋の下。
そこから飛び出してくる、教室でみた半ズボンの少年。
「よう、頑張ったな大将」
すれ違う時に、軽く頭を撫でて少年は突風のように迫る黒ずくめに立ち向かっていった。
びっくりして私はその場に立ち止まる。息もちょうど整えないとこれ以上は走れないくらいに乱れていた。
黒い髪の少年は、小さな木刀一本であの5人と1匹を軽くあしらう。
そう、あの桜吹雪が吹く前のアレは現実だったんだ…。
1人の骨の人が黒い煙の様に消えていく。骨も残らずに。
その戦う少年の先、私が必死に走ってきた道から、自転車に乗った白いパーカーの人が迫ってきていた。
「山姥切の旦那、先にどんぱちやらせてもらってるぜ!」
「すまない、大太刀に手こずっていた!」
白パーカーの青年は器用に土手の傾斜を利用して、少年の戦いを避けてやってきた。
「ハルカ、後ろに乗れ!」
「は!?うん…?えっと…」
私がちょっともたついた時、白パーカーの青年はどこからか木刀を取り出して低空を斬る。
ゴツ、と重たい音が地面で聞こえて、音の下方を見てみればバラバラになった骨の蛇の亡骸が蒸発していく所だった。