第2章 デジャヴ
自分の机の上にある、数学のノートやらペンケースを鞄にしまった。
私の左斜め後ろの友人と、ホームルームが始まる前まで話をして、担任からの連絡と、起立、礼の挨拶が終わると、皆いきいきと部活なり寄り道なり、散らばっていく。
私も友人と一緒に帰ろうと、鞄を肩にかけて振り返った。
私にちょっと遅れて鞄を肩にかけた友人の背後。
私のいる学校の3年生の教室は、校舎の3階にある。ベランダから見える桜の木の天辺、その背後の民家の赤い屋根。
遠すぎないし、近くもない。私の目が悪いわけでもない。その屋根の上で、半ズボンの少年がアクロバティックな動きで。
"慣れた動きで、黒ずくめの人を殺害した"
「ハルカ?どした?」
春風に乗って、桜吹雪が流れていく。
それでも私の時間は止まったように、いやゆっくりと流れていくように。
"少年と目があった、ような気がした"
風が止めば桜の花びらが下へと落ちていく。
赤い屋根の上には最初から半ズボンの少年も、刺殺されたであろう人もいない。もしかしたら落ちたかも?あの刺された人に少しだけ見覚えがあるような…。
暖かい春なのに少し、寒気がした。
「は、白昼夢……かなぁ、はは」
無理にでも笑ってみせた。
友人はなにそれ、とつられて笑った。
そんな微妙な空気の中、友人はあっ!と大きな声を出して、私はその声にびっくりした。
「ハルカ!今日一緒に帰れないんだっ!5限目の時にさー…メールが来ていて、この後後輩んとこ行かなきゃならなくて…」
「それくらいいいよ、私も寝てたのが悪いし…」
正確には寝てはいなかったはずだけれど。
ごめん!と言って友人は教室を飛び出していく。いつの間にか私のいるクラスは私しか居なくて、外はまだ明るいのになんだかこの教室の静けさが混ざって暗く感じて。
何よりも、さっきの光景が衝撃的で。
これ以上、変なもの見てはいけない。最近同じ夢を見続けて、その内容を思い出して来てるんだからもしかしたら次刺殺されるのは自分かもしれないんだよ?
自分の手に力を込めると、手先が冷たくなっていた。
「…よし、私も帰るかー!」
誰も居ない教室で、私が私に言い聞かせるように。
いつもよりも早足で教室を、廊下を、校舎を出た。