第7章 霊力
すれ違うもの達に挨拶や他愛ない返事を返すくらいで、山姥切とは部屋に入るまでは一言も話さなかった。
時々短刀達に呼び止められて立ち止まって会話しても、山姥切は立ち止まり、私が歩むのを再開したら進む、という感じで。
喧嘩したわけでもないし、奇妙な雰囲気だ。
部屋の前に来ると障子をあけ、中に入る。
明るい日光が入るので閉めずにそのまま、黙って互いに畳に座った。
険しい顔をして黙り込む山姥切。その表情は、だんだんと眉間にシワが寄り、今度はへの字口になるとうつむいた。
小さく、その…と語り始めたので私は背筋を伸ばし座る姿勢を改める。
「さっきの…俺の言い方が悪かった。あんたを不安にさせてしまって…すまない」
「さっきのって…転送室の時の話?」
まあ不安になるっちゃあ不安だけれど。不安とはまた別の…こう、何か。誰かに仕組まれているような感覚?山姥切に悪意はないとは思うのだけれど。
それらを考え込んでいるうちに、それが不安な表情として出ていたのかも。私は自分の顔を両手で挟んだ。
「そんなに私、不安そうに見えた?」
「ああ……。その、相談には乗る。だから一人では抱え込まないでくれ」
しょんぼりとする山姥切。
相談か。これって政府のどういった陰謀ですか?なんて聞いても良い返事来ないでしょう。実際、不安な事といえば。
「私、皆を支える力なんてないのにこんなにたくさん居る刀剣男士や本丸を仕切っていけるのかなぁ……くらいには思っているよ。
でも、きっと時間をかけていくんでしょう?」
霊力なんてそんなMPみたいなもの、私に分かるかしら?自分の両手を見つめても、昨日から何が変わったかもわからないし。
「霊力については後で、霊力を上げるための薬が届く。届いたものが審神者の霊力の容量を上げることが出来るから、それからだんだんと貯められるようには、なる…」
「でも、主になったって今の状態で霊力って感覚が分からないんだよ?そんな魔法みたいな未知のもの、私に分かるものかなぁー…」
手のひらを返し、手の甲を見つめながら指の隙間から山姥切を見る。
少し視線を反らして彼は何かを考えていた。
「なるほど…霊力の、感覚か……」
呟いて、一人うん、と頷く。そして視線を私の方へ移した。