第6章 初日の朝
「おはようさん、大将。背中の調子はどうだ?まだ痛むか?」
茶碗を一旦置き、自分の背中を触る。痛みなんて全くない。
…そういえば、昨日疑問に思ってた事だった。おばあちゃんに会う前後あたりだったろうか?痛まないのだ、敵にやられた怪我が。
「それが…昨日の時点で痛みがなかったんだ。結構痛かったはずなのに…」
薬研は首元から服をつまんで背中を覗く。その、脱がされないのは良いけれど。
薬研はふぅん、と言って服から手を離した。
「本丸に分けている先代の主の霊力か、引き継がれた時かだろうな…、怪我した痕が残らなくてよかった」
そういって薬研は自分がさっきまで居たであろう席に戻っていく。霊力ってのはすごいなぁ、なんでも出来てしまうのかなぁ。
茶碗の中身を綺麗にしていると、食べ終わった者から次々と自分の使った食器を片付けていく姿。
私も食べ終わったので、お茶碗やお椀を重ねて持っていこうとすると「キミ、ちょっと」と歌仙に呼び止められてしまった。
「この後すぐに遠征部隊が出るんだ、片付けはやっておくから、キミは転送室に行くと良い」
「あ、ありがとう、ございます」
「なに、お礼を言われる程の事じゃないさ。きみには早く、ここの生活に慣れてもらわないと」
さあ、と促され私は周りを見渡す。
山姥切は少し離れた場所で長谷部の側にしゃがみ何かを耳打ちして、こちらの視線に気が付いた。
また何か一言、長谷部の方に話しかけている。長谷部もその山姥切の言葉に短く返事をすると、山姥切は私の方に、長谷部はその場で何か考え事をしている様子だった。
少し早歩きで山姥切が側まで来る。
「待たせたな。転送室までいくぞ」
山姥切の後ろから転送室に向かう最中、同じ方向へと進む背中が見える。少しばかり足取りは遅く、黒い髪は後ろに束ねられていて、ここからでも聞こえる、あくび。
そんな姿を見て、山姥切が前を歩く者に喝を入れた。
「おい、日本号。今から遠征だというのにたるんではいないか?」
歩みを進めながら、顔を少しこちらに向ける日本号。
「おー…誰かと思えば山姥切と…主の嬢ちゃんじゃねぇか」
く、と少し呻く山姥切。そしてお酒の匂いが少し漂ってくる。
身なりをみれば、明らかに…不動よりも強そうな酒が入ってそうな容器をぶら下げていた。