第5章 月
夜桜が舞う。僅かな時間差で私達のいる縁側にも風が吹く。しばらく変えられることのなかった春の夜風は、私には寒かった。
「ここは冷えるだろう、主。布団に入ったほうが良い。眠れないのならは、このじじいが側で子守唄でも歌っても良いぞ?」
刀剣男士とはいえ、じじいと自称するとは。
えー?じじい?と見つめれば、ネリネの鉢を持ち上げ、元のように自身の膝の上に乗せた。
「こうみえても平安の刀でな、じじいのようなものさ。先代には気に入られてな、よく近侍にされたものだ。どれ、布団に行くか」
ゆっくりと立ち上がり、片手を私に差し出す三日月。その手を取って私も縁側に立ち上がった。
直ぐ側の私の部屋の障子を開けてくれる。一緒に入ってきそうな所、おやすみなさいといってそこで別れた。
…男性だからっていう意味じゃなくて、なんだか神々しくて逆に眠れなくなりそうな人だな……。
ふわふわのふとんに体を挟めばあっという間に眠る。久しぶりに、夢を見ないほどに。
****
「おい、おい…おきろ、朝だぞ」
背中あたりをばしばしと叩かれる感覚と、呼ぶ声。
少し呆れているような声色。
段々と頭が覚醒して、布団から顔を出した。
「んっ、おはよ…まんばちゃん」
おはよう、と返事をする青年は既に身支度を済ませており、ボロボロの白い布を被って、白い布の中は洋服…、この本丸に来る前にみた服だった。なんだかちょっと、学生服にも似ているなぁ…。
顔をまじまじと見ているとだんだん顔が険しくなてくる、初期刀、山姥切国広。
片手をそっと自分の頭に伸ばし、髪が重力を無視した方向に行ってるな、と確認した。布団に潜り込む。布団の外から「おい、こら寝るな!」と怒る声が降ってくる。
「寝癖やばいから一旦外いってて、あと着替えるから…」
もぞもぞとふとんを被ったまま上半身を起こし、顔だけ出してまんばちゃんに言う。
彼は俯いて手の甲を口元に持っていき、数回肩を揺らすのを見た。
「…起き上がり小法師か」
「誰が民芸品だこら」
一度部屋から出てもらい、タンスから着る服を吟味する。この本丸につれてこられ、服もきっと和装かなって思っていたけれども、昨日の巴が持ってきた服はどれも至って普通の洋服だった。
「うん、これでよし!もう良いよ、まんばちゃん」
手ぐしで髪を一度整えて、部屋に呼ぶ。