第5章 月
「俺で良いのか?」
「もちろんです」
また前のめりにこちらと目を合わせ、いや、しかし…と少し離れて、視線は畳の方へと彷徨い始める。
「今回ばかりは、先に薬研にあっていたし……、長谷部が色々と教えるって先を越していた…
俺があんたに頼んだからか?これは強制ではなく、あんたの意思で決めて良いんだぞ?それに、」
自信がないのか、落ち込みかけている山姥切。
その正座した足、膝を両手でぱしぱしと叩いた。
「聞いといて、決定してそりゃあないんじゃないの?それに私は薬研よりも先に、夢の中で山姥切が助けに来てくれる所を何度も見てるから!
予知夢的に有りでしょう?」
薬研は夢に出てこなかったけど。
キリの良いところで膝を叩くのをやめ、私は背筋を伸ばして腕を組んだ。
「そういうことだから、初期刀はキミで決まりね、まんばちゃん。よろしく!」
不動が呼んでいたのでそう呼んでみると、まんばちゃんと呼ばれた青年は瞳を閉じて肩を落とす。
「はぁ、あんたまでそう呼ぶのか……、」
「えー?不動くんの時そんな嫌そうじゃなかったけれど…」
駄目だ、という山姥切に本当に?本当に嫌なの?と続けると、別に嫌とは言ってはいないと返ってくる。別に、あだ名をつけたいってわけじゃない…いや、あると便利だけれど。
刀剣男士の名前が長いし。それに、まんばちゃんって響き、かわいいし。
「まんばちゃん」
「…なんだ?」
ふふ、本当に響きが可愛い。
なんでもない、と言えば用がないなら名前を呼ぶな、と呆れ気味に返された。
…いや、用はあるわ。
「まんばちゃん」
「はぁ、また何でもない、なんていうんじゃないんだろうな?」
「いや、用はありますって。実は、近侍についての相談なんだけれど…」
私は、最初に近侍にするべき刀剣男士について悩んでいる事を相談してみた。
今、知っている中で誰がいいか、むしろそれ以外の刀での山姥切が推薦する刀は誰か。
真剣に相談を聞き山姥切はしばらく考え、こちらに目を合わせて言う。
「確かに、近侍として長谷部は適任だと思う。だが、あんたのすべきことも刀剣男士が出来る範囲でやってしまって、最初には不適任だろう…、だからこそ、サポートとして適任なのは……」
名前を聞き、私が初めて聞いたであろう先代の話をしていた人物、堀川国広を山姥切は推した。