第3章 継承
椅子に座り気持ちが少し落ち着いてきた所で、縁側、右側の廊下から足音がする。
縁側から見える中庭、ここも私の家があった所と同じ春なんだなぁ、桜が咲いている。
両側に開け放たれた障子、その真ん中の中庭のセットが、まるで京都のCMに使われそうなくらいに綺麗。
でもここの時間はずれているようで、来る前は夕方だったのにここは3時間ほど遅れているようだ。まだ夕方になる前。
「お待たせいたしました、主」
長谷部がやってきた。確かに物事をわかり易く説明してくれそうだ。
椅子は私が座っているものしかないので、私は畳の上に座ると割と近い距離で目の前に長谷部が座る。
忙しくて自覚するのに遅れてしまったけれど、この本丸にいる人達、皆容姿端麗だ…目の前の長谷部がテレビに出ていてもおかしくない、俳優さんのよう。
「審神者とは、刀剣男士とは、我らの敵とは。順を追って説明していきましょう。
申し遅れましたが、私の名前はへし切長谷部。長谷部、とお呼びください」
丁寧に、分かりやすく。
長谷部は教えてくれる。おばあちゃんまで続けてきた主達が今まで集めた刀剣男士である事。
おばあちゃんは初めは私の様に、夢で予言していた事。だから、少しずつ力を付けていける様になっていけるということ。
本来は審神者が代替りする時に儀式を送るけれど、ここはすでに儀式は済ませてある、と言われ私は疑問を持った。
「そんな儀式、私は知らないんだけど…」
「皆が見ておりましたよ、前の主と手を重ねたではありませんか。それだけで良いのです、ここの本丸では」
皆が、意思が引き継がれたという瞬間を見ているのですから。
そういって長谷部は私の手をとって、両手で包み込む。
「ここに来る前に、もう家には帰れない、けど偽名を使うなら良いって話をされたんだけど、おばあちゃんはどんな名前だったの?私は、本当の名前も知らないんだ…」
長谷部は渋い顔をして、包んでいた私の手をそっと開放した。
「…それは、前の主との約束でして…真名も偽名も…お話する訳にはいかないのです、申し訳ございません」
「話せないのなら仕方ないよね、…うん」
偽名ですらわからないなんて。
私の知らないどこかで葬式が、私の知らないうちに継承の儀式が行われ。
かなりお腹をすかせた私の腹が長谷部の前で大きくグゥ、と鳴った。