第3章 継承
大部屋に入り、その布団の側に座る。
隣には山姥切、遅れてやってきた御手杵は山姥切の隣に正座した。明かりの入ってくる庭側には皆配慮してか座らず、私達3人のみがいる。
おばあさんの枕元には白衣を着た薬研が座り、私が座ったのを確認すると薬研はおばあさんに顔を向けた。
「刀剣男士全員、集まったぜ大将」
その言葉を聞いて、ゆっくりと目を開く。
その目は周りに座る刀剣男士を見渡し、やがては私に向けられた。
「歳を取ると、そこまで驚かないものだねぇ」
枯れた声が発せられて、布団の中からもぞもぞと手が出てくる。強制されたわけじゃないけれどその手を私はとった。
私は医療に詳しいわけじゃない、のにこのおばあさんはすぐにでも死んでしまいそうなくらいに衰弱していた。それでもその握った手は温かく。
あのかつてのように暖かった。
「これで二度目に会うねぇ、ハルカ」
「……おばあ、ちゃん…?」
ちょっとだけ首を動かして頷く、私のおばあちゃん。
「まさか2度目に会う時がお別れの時なんてねぇ。優しそうで、大きくなったね、ハルカ。
…みんな、私が死んだ後は頼んだよ、」
おばあちゃんは、山姥切の方を向いて振り絞るように「ハルカをよろしくね」と呟いた。
静かな空間にすすり泣く音と、あるじ、あるじと囁く声に満たされる。
私の手の中…握られた手は、力なく開かれていった。
薬研が、おばあちゃんの顔を覗き込み、手を伸ばす。開かれたままの瞳を、そっとまぶたを閉じさせて眠ったようなおばあちゃんにしてくれた。
小さな男の子達や、一部の青年、成人…?は未だに泣いたままだけれど、山姥切やそれ以外の人たちは少し悲しそうな表情をしているか、ただ無表情かだった。薬研は、そっと白い布をおばあちゃんにかぶせた。
「おつかれさん、大将。後のことは皆に任せるが良いさ…
長谷部、時の政府に大将の遺体引き取りの件伝えてくれ」
「わかった」と言う、真面目そうな男は、目尻をその白い手袋で拭い、一度こちら側に一礼してからどこかへと早足で向かっていった。
「主が亡くなった、これより俺たち刀剣男士達はハルカを新しい主として迎える」
山姥切は私の方に向き直って、ここにいる全員に聞こえる音量で話す。