第1章 魅惑のティーカップ 逢坂壮五
本の内容はこうだ、ある日少年が家に帰ると彼の家族が自殺したと警察に告げられるのだが、少年はそんなわけがないと思い、探偵のように事件の真相を少しづつ集まる仲間とともに見つける、という話。
確かにあの女性が言っていたようにその設定や内容はなかなかベタではある、しかし、その紡がれる言葉や文章、会話はとても繊細で細かく、よくよく見ると暗号が隠されていた。
凝ってるなあ...なんて思うくらいには長く一冊もなかなかに重量があるその本。
著者はさほど有名ではない。
けれど僕はすぐに作者のファンになってしまった。
久々の休日だというのにあっという間に時間が過ぎ、少し黙読してからお昼を食べ、それから夕食手前まで読み続け、とうとう読み切ってしまった。
上巻下巻に分かれているらしく、上巻を読み切った達成感以上に次を読みたくなる様な煽り文句と文章が頭に残って。
近々下巻を読みにまた行かなくては。
アイドルは忙しい。
朝から晩までステージやレコーディングスタジオ、ダンス練習に追われて休日だっておおよそステージや昼番組、ゴールデン、深夜番組なんかにも出ることが多い。
結局のところあれから休みを取れたのは二週間以上経ってからで、本の内容はしっかり頭に残っていたのだが、教えてくれた女性の名前を聞いてないことも思い出した。
(今日も、いたりしないかなあ...)
教えてくれたお礼もしたい、ついでに言えばこの本で語り合ったりできないだろうか。
しかし、自分はアイドルで彼女は一般人。
アイドルとして彼女がファンだったら其れ相応の対応をしなくてはいけないし、すっかり有名になってしまったアイドルが一つの店を贔屓に通っている、なんて知られたらあの店に迷惑がかかるだろう。
自慢ではないが自分は目立ってしまう。
でも彼女の対応を思い返してみればファンとして、というよりかは世間話をする他人行儀な礼儀正しいものだった。
アイドリッシュセブンを知らないのか、そもそもアイドルに興味がなく、自分を知らないのか。
どちらにせよ彼女と話したい気持ちは依然変わらず、淡い期待を胸に厚い本を持って軽い足取りでカフェへと向かった。