第1章 魅惑のティーカップ 逢坂壮五
雑誌なんかも多く並んでいて、どれから読もうか、なんて悩んでいると、奥からカタカタと音がした。
本棚の隙間から向こうの本棚が見える。
よく見れば本棚の一番上にある本に爪をカリカリと引っ掛けながら背伸びをしている人影が見えた。
本はかなり厚みがある。
落ちたりなんかしたら怪我をするかもしれない。
一つ向こうの本棚へ急いで、後ろから目的であろう本を引き抜いた。
「大丈夫ですか?これ、ですよね?」
「ありがとうございます」
律儀に一礼すると長い絹のような黒髪がさらさらと重力に従って肩から滑り落ちた。
「気にしないでください。向こうの本棚から困っているように見えたので...」
「お恥ずかしい...」
軽く両手を振ればその人は宝石のような琥珀色の瞳を細め、少し眉尻を下げて困った様に微笑んだ。
身長はそれほど変わりないのだが、数cmとはかなり大切なようだ。
女性にしては高いその身長故に台を持って来なかった様子。
このまま、というのも気まずく、話題を探した。
「その本、面白いんですか?」
「あ、はい、ベタな内容ですけど、私は好きです」
大切そうにその本を撫でるその人を見てどれから読もうか迷っていた心はすぐにその本へと向いた。
「僕も読んでみますね」
「是非」
その人はそう和かに笑って行ってしまった。
カフェから寮までそれほど遠くはない。
名前さえ記入しておけば無期限で本を貸し出してくれるというそのカフェのシステムに感謝してその本を貨り、寮へと帰った。