第1章 魅惑のティーカップ 逢坂壮五
果てのない晴天、一歩踏み出せばきらきらと眩しく、暖かく降る日差し、まだ少し生暖かい風と共に桜がひらひらと舞い落ちる。
アイドルという仕事に就いてからは外に出るにも周りの目を気にして、最近なんかは殆ど休日らしい休日を過ごすことなく忙しなかった。
こうして寮から少し離れた場所でさえ歩くのはいつ振りだろうか、なんて思いを馳せる。
そこそこ大通りではあるが平日の早朝なだけあって人通りはそこまで多くない。
よく見れば何軒か新しい雑貨屋や飲食店なんかができている。
その中のカフェの外観に目が留まった。
シンプルな黒と白のストライプ、周りの柔らかい色合いからかけ離れ悪目立ちしているようなそのカフェに興味本位で入店した。
外観に反して中は安心感を感じる、暖かみのある木材建築。
店内に流れる曲は最近流行りのものから年層としてはかなり古いものまでらしい。
立ち並ぶ本棚には哲学からホラー、ライトノベルまで見える範囲でも色とりどりの種類を置いてある。
無機質な細身の黒い椅子、質の良い黒いソファ、黒いハンモック、黒いクッションソファ、其々個々に薄い黒い壁で仕切られていた。
シュロチク、アイビー、ウンベラータ、様々な観葉植物やハーブも取り揃えてある様子。
外観もさることながら店内はなかなかちぐはぐな構成だ。
割と広めの店内にはちらほらとはたまた年層がバラバラな来店者。
「いらっしゃいませーお一人ですか?」
「あ、はい」
「ご自由にどうぞ。メニューは各席ごと置いてありますのでお呼びつけください」
一人で切り盛りしているのだろうか、アッシュグレーの短髪で、黒いエプロンをつけた背格好の良い男性が僕に声をかけた。
中央辺りの一人用ソファはかなり座り心地がよくて、二つ隣のおじいさんが寝てしまうのもよくわかる。
メニューには沢山のハーブティーや紅茶、珈琲、軽食なんかが載っていて、黒色に白字のメニューはなかなかにオシャレだ。
店内特別ブレンド、と説明書きのあるブラック珈琲を頼んでから本棚に向かう。