【R18】【ごちゃまぜ裏夢✿短編集】今夜はOKかもしれない。
第22章 僕のヒーローアカデミア✿治崎廻「愛してる、だけじゃ伝わらない
移動中、手錠の頑丈さを確認した。個性を発動させれば破壊できなくもないが、複数の男たち相手に個性でも肉弾戦でも確実に逃げれる保証はない。恐らくは手練れ…、そう考えるのが無難だと判断し、応接室という場所に案内させられた。
「──はじめまして。乱暴な真似をしてすまなかった。手錠は外していい。そこに掛けてくれ」
部屋には一人だけ座っている男が一人。ほかは全員、壁沿いに立つだけ。とても奇妙にうつる光景だが、この腰を掛けている男の目つきをみれば一目瞭然だ。
(……何なの。この人の、冷たい目は…)
まるで氷柱でも刺さったような感情のない眼。丁寧な口調、物腰を折って喋っているように聞こえるが、そこには温情という欠片は全く感じられない。
「俺の名は、死穢八斎會の若頭・治崎廻。俺はきみの声を聞いてみたい。なにも焦る必要はない。心の準備が整ったら、きみの名前を聞かせてほしい」
男は治崎と名乗った。『しえはっさいかい』というのは初めて聞いた組織だ。ただ一つだけ確信したことは、若頭というワード。
(………ヤクザ、なの…?なんで…、なんのために…、私に用が…)
何か根に持つような、喧嘩を売るような真似をしてしまったのだろうか。ごく最近の記憶から思い出せる範囲の記憶のあとをたどってみるも、これと言って気掛かりなことはない。
(なにも、関わりはない…と思う。事情を聞くべきか…)
すると男は、重度の潔癖症だと自分のことを話し始めた。顔を知られたくないマスク(もしくは仲間の証)だと思ったのだが、その理由を聞いてある意味納得する。壁に立つ部下たちは全員ペストマスクで顔や口元を隠しており、この若頭が絶対的存在だと明らかにしている。
(………空気が…、思いやられる…)
声が聞きたい、名前を聞きたい、と言われたことを覚えているが、声帯がキュッと萎んで音を出すことを拒否している。何をしてくるか分からない、命を手で握っている複数の男たちに囲まれて、声帯が開くはずもなかった。