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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第2章 雑音に混ざる愛しきその声



幾分して更に夜の闇が濃くなって来た頃
打ち上げ花火が上がる合図、ちいさな空砲が鳴った。
びくりと小さく体を震わせた光忠さんは、少しだけ表情が固く緊張しているように見える。
それもそうだ、本丸の庭でのささやかな花火は経験しているけれど…何処から飛んでくるやも分からない大きな花火は初めてなのだから。

『大丈夫?止めておく?』
『ん?ああ、心配いらないよ』

笑う顔はやはりまだ固い。
今度は私が彼の手を強く握り返す番だ。
久々だと言った私の夏祭りを共に過ごそうとしてくれている姿に、申し訳なくも有り難い気持ちになる。
恐る恐る誘いの声をかけた時に、寧ろ僕以外の相手と行くだなんて許さないよ?なんて言われたことを思い出した。結構やきもち焼きなのだ。
恋仲になってから彼は本当に色々な表情を見せてくれるようになった。時には格好悪いよね、と言いながら。
そのすべてが私には嬉しくて愛しくて、もっと見たいと欲張りになる。今回の花打ち上げ火はどうだろう、恐怖心を与えなければいい…もしそうならば手を引いて立ち去るつもりでもいた。

そうこうしていると、ドン、という音と共に最初の花火があがる。
間髪入れずに2発、3発、とまた大きな音を上げて夜空に色とりどりの花が咲き乱れ、歓声が混が起こった。
打ち上げてみなければ本当の出来が分からない花火玉を、職人さんが構想して作り上げる。
その思いが詰まった物が今こうして夜空で綺麗な花を咲かせているのだ。
ああ、やっぱり綺麗だなあ
光忠さんも、そう思ってくれているだろうか。
繋いだままの手にきゅ、と力が込められたのを感じる。
暗闇の中打ち上がる花火は…火は、彼にとって綺麗に映ってくれているだろうか。


『…凄いな…』


ふと漏れた言葉にそっと隣に目を向けると
光忠さんは夢中で花火を見ていた。まるで子供がそうするように小さく口を開けて、瞳も大きく見開かれている。琥珀色のそれは花火の光が映ってキラキラと輝いていて。
そこには、恐怖も哀切さもなくて。

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