第9章 やさしいかみさま
人には、寿命があるものだ
それを覆すことは出来ない......”我々人間には”。
末席とはいえ仕方のないことですら覆せる”付喪神”。中には魅入られてしまい深い仲ではなくとも連れ去られてしまった審神者もいるだろう。畏怖を感じない訳では無いが...逆の立場であるならばと考えると完全に否定は出来ない。
こんな風に言うのは可笑しいかも知れないが、寿命があると理解している分人間は死を受け入れる事にある程度免疫があるのではないか。
刀として有り続け、色々な主人の元を渡り歩いた彼ら刀剣男士は折れない限り”死”という概念が無い。大事にされているなら尚更幾年もそこに有り続けるのだろう、様々な人々の”思い”を受け取りながら主人を見送り続ける。
それがどれ程の事なのか、思いなのか...ただ遺して逝く事しかできない人間には到底計り知れない。
...ああ
こんな時は、なんて声をかけたらいいのだろう
結局何を言ってもどうにもならない。
優しい嘘は通用しない、それがいかに残酷なものであるかなんて私(人間)にだって理解出来る。
その私も、本当はどうしたいのだろう。
本丸で生涯を終えたいという気持ちに偽りはないけれど...奥底にある、無意識にしまい込んだ本当の願望は...
「...光忠さん」
びくり、と私を包む大きな体が揺れた。
まるで怒られるかもしれないと怯える子供のように。私は極力優しい動作で、彼の胸にそっと身を預ける。
「そばに、いてくれる?」
頭上から息を飲む音が聞こえた。と同時にぎゅうと真正面から抱き締められる。熱であついはずなのに光忠さんの体温がなんだ心地よくて、縋るようにその背に腕を回した。
「...もちろんだよ、任せてくれ」
優しく頭を撫でてくれる彼の声はまだ震えていた。これで本当に良かったのかな、劇的に解決をした訳では無い。それでも、私はなんだか安心をしてしまって。と、同時に同じくらいの安心感をこの優しい神様に与えるにはどうしたら良いのだろうという難題をそっと自らに課すのだった。