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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第2章 雑音に混ざる愛しきその声



*

色とりどりの提灯が暗闇を優しく照らす通りを、光忠さんと並んで歩く。
両脇にはところ狭しと広げられた屋台。
派手さは無くとも、その街に息づく人達の優しく穏やかな催しには沢山の人が来ていた。
よく見ると、他の本丸の審神者さんと刀剣男士も見かける。
家族のように笑い合う姿や、仲睦まじく寄り添う姿にみんな大切な相手と任務の合間の息抜きにこのお祭りを楽しんでいるのだとわかって、自然と頬が緩む。

『ふふ、なんだか嬉しそうだね』

そんな私を見てか、光忠さんが声をかけてきた。
濃紺に淡いグレーの帯を合わせた浴衣を身に纏う姿は、何時もの装いに比べてその逞しい体つきが目立っていてなんだか直視ができない。
なんでこんなにも似合ってしまうんだろうか、整い過ぎているのも問題だ。
もちろん、好きになったのはそこだけじゃないのだけれど。

『うん、まあ、お祭り自体久しぶりだしね』
『浴衣を着るのもかい?』
『そうだねえ』

光忠さんのそれよりは幾分か明るい紺色に、薄紫の朝顔柄。落ち着いた風合いの山吹色の帯を結び、髪もアレンジを頑張った。
ちょっと古いし地味なものだけど、気に入っている浴衣。
悩んだ末に持ってきて良かったと心から思う。
現世では仕事の時に着ていたなあ、忙しくてこうしてお祭りを楽しむ機会も無かった。
ましてや、恋仲の相手とだなんて。

『…惚れ直したよ』
『……、っ』

…だから
穏やかな笑顔から繰り出される突然の爆弾は、私の思考を停止させて言葉を発するという行動をいとも容易く封じてしまうのだ。光忠さんは可笑しそうにくすくすと笑いながら繋ぐ手の力を強めてくる。
浴衣をお披露目した時も沢山の褒め言葉を貰ってしまったっけ。どれだけ一緒に過ごそうと、こういった類の物には慣れない。
いや、さすがに恋仲になれてからは少しはマシになった、かもしれない、けれど。
それでも、私のこういう所を呆れずに拾ってもらえるのは心底安心するし、助けられてきたのも事実で。

『僕も嬉しいよ、可愛い君とこんな風に楽しむことができて、さ』

だからと言って、平然としていられる訳ではなく。見なくとも明らかに上機嫌な彼の熱を感じながら、私は暫く屋台の喧騒とカラコロと鳴る下駄の音を聞いている事しかできなかった。

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