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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第2章 雑音に混ざる愛しきその声



『お祭り?』

あれだけ強かった日差しが落ちて、燃えるような夕日の赤が差し込む頃。
万屋にお使いをお願いしていた薬研くんと厚くんは、戻ってくるなり揃って私の部屋へ来ていた。
なんでも、万屋がある街の神社で夏祭りがあるらしい。

『おう!それで万屋の旦那からこいつを貰っちまったんだ』
『俺っち達より、大将が行くほうがいいんじゃねえかと思ってな』

差し出されたのは、厚手の色紙で出来た手作りの券。様々な出店特有のメニューが書かれたそれは真ん中に点線が書かれていて、いわば食券のそれと同じだった。
かき氷にわたあめ、リンゴ飴、焼きそばやじゃがバターにチョコバナナ、型抜き、ヨーヨー釣りや射的まである。
どことなく現世のそれが入り混じったようなラインナップは、政府の手回しだったりするのだろうか。
そもそも、これはどちらかと言うと私よりも粟田口をはじめ短刀のみんなの方が喜ぶんじゃ…。

『燭台切の旦那と行ってこいよ』

私の考えを、表情から読み取ったであろう薬研くんが、悪戯っぽく笑って思いがけない言葉を先回りのように投げかけてきた。

『え、でも』
『大将これから浴衣着るんだろ?昼間ろくすっぽ遊んでねえんだし、丁度良いだろ!』

戸惑う私に厚くんも追い打ちをかけてくる。
そもそも本丸のみんなには私と光忠さんとの関係は説明しているし、知れ渡っている。
だからこその、彼らなりの気遣いなのかも知れない。侮れないなあ。

『どデカい花火も上がるらしいぜ』

花火。
そういえば…一年目の夏に庭でささやかなものは楽しんだけれど、夜空に咲く大輪の花のようなそれは私も見るのは久しい。
小さな手持ち花火をするのも好きだが、迫力のある大きな花火も、大好きだった。
しかしそれこそ、刀剣のみんなに、と言おうとしたところで二振りが大量の花火セットを袋から取り出し、私の目の前で楽しげに広げ出したのを見て、せっかくの好意を無下にするのはやめようと言葉を飲み込んだ。

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