第9章 やさしいかみさま
**
あつい
ああ
頭がぼんやりするなあ
苦しいなあ
今何時かな
みんなご飯食べたかなあ
ふと暑苦しさに目を覚ますと取り留めのないことばかりを考える。まだ余裕があるのか?いやいやそんな事はあるはずも無く、ただただ苦しい。
どのくらい寝込んでいたんだろう...霞む目をなんとか見開いて周囲を見渡すと、目の前に黒い塊が見えて死ぬほど驚いた。
「...目が覚めたかい?」
光忠さんだった。
黒い塊などと言ってしまって本当に申し訳ないと思いつつも入室を制限して貰ってある筈なのに、事もあろうに彼はずっとここにいたのか。横たわる私の片手を握りしめて。
「何か欲しいものはあるかな、ああ...それよりはまずお水を飲もうね」
「...なん、で...?」
絞り出した私の声に、いつの間に用意をしたのか吸い飲みを手にしていた光忠さんはぴくりと一瞬動きを止めると困ったように笑った。多分私の問いかけの内容は理解していると思う。”なんで?”というのは、何故ずっとこの部屋にいたのか、という意味で。
「...君の、そばにいたくて」
...別に責めている訳では無いのだけど、ぽつりと呟いた光忠さんは苦しげに目を伏せていた。それほどに心配をかけてしまったのだろう、なにしろ本丸に来て高熱を出したのは初めてだったから。節々が痛むのを見ないふりをして、腕を伸ばし彼の手にそっと自分のそれを乗せた。すると直ぐにするりと握られる。まるで磁石みたいにぴったりきっちりと。
「...ありがと、でも...心配し過ぎだよ」
「......」
安心させるつもりで言った言葉ではなかった、ただの照れ隠しなのかなんだったのかは定かではない。なにしろ私は発熱で判断力が鈍っている、という言い訳をさせて欲しい。私の言葉を聞いた光忠さんは伏せていた目を開くとその蜂蜜色を揺らした。まだ、苦しげな表情のまま。
「......だけど」
「うん?」
「......」
普段あまり見ることの無い、言いにくそうな...なんと言えば良いのかと言葉を探しているような素振りに思わず身を起こすと慌てて光忠さんが支えてくれた。と、そのまま肩を抱き寄せられる。
そこに触れる手が震えていた。
体勢的に私と顔を合わせられない状況になったからなのか...静かにぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出す。