第8章 欲張りな僕ら
「せっかくだから、貞ちゃんと過ごしておいでよ!」
にこにこと嬉しそうにしている君に他意も悪意もない、ただただ純粋に僕らを考えての事だ。最初はもちろんその気遣いに感謝したよ?ずっと会いたいと思っていた大事な仲間だ。
鶴さんや伽羅ちゃんも交えてたくさんの話をしたし、本丸の仲間たちにも紹介していった。
けれど、あまりにもずっとそう言われ続け...そろそろ元に戻るだろうと踏んで長い目で見ていたら貞ちゃんが此処に来てもうふた月程になるだろうか...今だに気遣われている。
確かに、僕は彼女を知らずに追い詰めてしまっていた...けれど今は貞ちゃんは此処にいる。よっぽどのことが無い限りは失う事は無いだろう。
僕が大事にしたいのは、本丸の仲間たちだけじゃない、恋仲である君も例外なく含まれている。主と二人で過ごす時間だってかけがえの無いものなんだ。
ひょっとして...僕は欲張りなのかな...
いやでも、仲間も恋人もどちらも大事だし選ぶことは出来ない、あ、いや、どちらを助けるかと言われたらきっと主だ、だけど仲間のみんなが大事じゃない訳ではないんだ、えっと、ううん...難しいなあ...参った。
要するに僕は今、気遣いの極端さが原因で恋人との時間が取れずにいて...彼女の温もりに飢えているんだ。
✱
「わはは!まーた振られちまったのか!」
「...笑い事じゃないよ貞ちゃん...」
1人でいたら堂々巡りできっと無様な休日を過ごすことになる、それだけはちょっと、うん、避けたいな...そう思って頼る先はやっぱり彼らの元だ。他のどの仲間よりも僕の事を知り、気を許せる三振。
「まあ、主のそういう気が回る所は好感が持てるんだがなあ...」
「...どうでもいいな...」
「そう言いつつちゃあんと話を聞いてやるとは優しいなあ伽羅坊!」
「...うるさい」
1つ引っかかるのは、今回の件は彼女に無理をさせているという訳ではない事だ。紛れもなく主の意思で、僕らの...僕のために良かれと思ってしてくれている。
「主は良い奴だけどさ、もーちょい我儘になっても良いと思うんだよなー」
此処に来てまだ日が浅い貞ちゃんは、もう彼女の性格を把握してきていた。その刀身のように真っ直ぐな物言いはとても格好良い。