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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第6章 ただ、会いたかった



それは、運だった
たかが運、されど運

敵大将のところまで進めれば良いが重傷を負わされ途中撤退、道をそれてしまい資材を持ち帰るのみ(それも充分有難いものではあったが)
挙句、敵大将を倒しても現れない彼...代わりに検非違使が出現をしてしまう始末。
部隊や審神者の練度が上がる一方で、終わりの見えない戦いに私は精神的に疲弊していった。

どうしよう。
私はただただ彼らを再会させたいだけなのに。
きっと光忠さんだけじゃない、伊達縁の刀達皆が喜んでくれるはずだ。

審神者として単身本丸にいる私には家族になかなか会えない思いを充分わかるつもりでいた、これ以上彼らに寂しい思いをさせたくは無かった。
伊達の刀だけじゃない、粟田口や新撰組、三条、来派...他にも沢山。繋がりがある皆の大切な仲間。刀剣男士として感情を持って生まれてきた彼らに仲間と心を通わせることができる、言葉を交わすことが出来る喜びを伝えたかった。ただそれだけだったのに。
気付ば私は日々捜索の為の調査や通常の任務に明け暮れ、自らを省みる事を忘れていた。


***


「主」
「...!?」

ふと、視界を覆う黒にびくりと我に帰る。
私は暗闇の中ずっと政府支給のパソコンに向かっていた。
覆われていた黒は、光忠さんの手だったことに気づくまで間が空いてしまう。
私はそれほどまでに没頭していたのか。
状況把握が遅れている私の耳に優しい低音が響く。

「食べるものを持ってきたんだ、少し休んで」

ゆっくりと顔を上げると、気遣わしげに眉を下げて笑う琥珀とぶつかる。
もう片方の手で持っていたお盆には温かいスープとふわふわのパンが乗っていた、凄くいい匂いがする、でも。

「...あと、これだけだから...」
「そんな事を言って君、朝も昼も食べていないじゃないか...お願いだから食べて」

いつもの、有無を言わせない笑顔。
これはこのお盆を受け取らない限り許されないやつだ...そう悟った私は有難く戴く事にした。
暗闇だと思っていた部屋は日がだいぶ傾いた夕暮れで淡い赤に染まっていた。

「...ごめんね」

この所、私は謝罪をする事が増えた。
色々な本丸から太鼓鐘くんお迎え報告が上がる中大事な家族を見つけることが出来ない無力さ。
皆の快挙を素直に喜ぶ事が出来ない卑屈さ。
ずっとついて回る焦燥感と

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