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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第6章 ただ、会いたかった



審神者としてこの本丸に来て、幾多の出会いを経て彼を顕現してから言われてきた言葉とその名前。遂にこの時が来たと思った、頑張りたい、頑張らねば...彼のためにも。
しかし生まれたものは固い決意だけでは無く少しの誤算も含まれていた事に気づいたのは何時だっただろう。


***


【太鼓鐘貞実装】

政府からの通達を受けた私は誰よりも先に光忠さんへと伝えた。太鼓鐘貞宗ー貞ちゃんは彼が前の主である伊達政宗公の元に居た頃に縁のあった刀。
そうそう表には出さなかったが、(とは言え実装前に審神者部屋で「貞ちゃんはこっちに来てる?」なんて戯けて口にする事はあったが)本当は凄く、凄く会いたくて仕方がないのだろうなと思っていた。ずっといちばん近い場所で見つめてきたから。
一期さんや短刀の皆がじゃれあう姿を懐かしそうに切なそうに見つめる姿に私だけの力ではどうにもできずただただもどかしさを感じていたから。

厨にいた彼に通達を手に伝えると、普段格好や立ち振る舞いに気を使う光忠さんにしてはなかなかお目にかかれないような...それはそれは嬉しそうに子供みたいな笑顔を見せてくれた。その後は動揺のあまりにかまだこちらに来てもいないのにお祝いにと夕餉の献立をもっと豪勢な物に変えようかと言ったり食器を取り落としたり、挙句料理を少し焦がしてしまって歌仙さんに「いいからまず君は落ち着きたまえ!」と窘められてしまっていた程で。
それでもその喜びを抑えきれていない姿に歌仙さんと笑ったものだった。
私も、凄く凄く嬉しかったのだ。


それでも、現実はそこまで甘くはなかった。

先ず、江戸新橋を攻略してはいたものの白金台を抜けるには些か力量不足だった。光忠さんは最高練度に達していたが、部隊はまだ追いついておらず私の采配も間違っていたことに気づく。
光忠さんも初めこそ「大丈夫、必ず貞ちゃんを連れて帰る!」と意気込んでいたが、現実を早々に見据えると直ぐに気持ちを切り替えていた。
毎度傷付いて帰ってくる部隊の皆に焦って落ち着きを失くす私とは対照的に、光忠さんはどこまでも冷静だった。
実際に白金台の敵とまみえた経験を生かし編成、力量、刀装、資材、全てにおいて的確なアドバイスをくれて、私も必死に応えていた。
それでも一つだけどうしても抗えないものとぶつかってしまい、私は酷く絶望してしまった。

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