第5章 こう見えて私は恋をしていた
(あ、これ...)
ふと手にした髪飾りは黒の縮緬に金の布を合わせた2色使いのリボンバレッタで、黒地の所には金色の糸で丁寧に桜の刺繍がしてある。
...ああ、なんだかこれは、この色使いは
(僕の、色だ)
即決だった。
手に取ったそれを店主に渡し贈り物として包んで貰った。
あまり派手なものを好まない君には丁度いいなんて、髪飾りを渡せばまた今日のように彼女はそれを使おうと身を整えてくれるかもしれないなんて...彼女の頑張りを否定しているわけではないという気持ちを伝えるためにだなんて
どれもこれもただの口実だ。
『世話焼き』ではなく『男』として着飾るあの子が見たい、僕の色を身に付けて欲しい、笑ってほしい。
そういえば、彼女が微笑む所を見たのはいつだったっけ...『世話焼き』になってから苦笑いとかうんざりするような顔しか見ていないような気がする。いや、全くないわけではないけれど...僕に対して、は久しく見ていない気がする。
まあ、当然ではあるんだけど、さ...
また、見たいなあ...
店主に綺麗に包んで貰った贈り物を大事に抱えると、皆そろそろ集まり出しているだろう集合場所へ向かった。
何より早く本丸に帰って、彼女と話がしたかった...会いたかった。