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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第5章 こう見えて私は恋をしていた



どうして
どうして僕は同じように出来なかったんだろう。
いつも彼女に口うるさく言うくせに、実際彼女が頑張った姿を見て褒めることもしてあげられなかった。

だって
だって凄く似合っていたから。
本当に可愛かったから。
いざ君がそんな姿で現れると言葉がうまく紡げなかったんだよ...早まる鼓動に柄にもなく取り乱しそうになって、格好悪い姿を見せたくなくて出したハズの言葉は最高に格好悪かった。

どうしよう、どうしたらいい。
あの彼女の一瞬の悲しみは、きっと無自覚だ。
失言を詫びるだけではなんだかちょっと違う気がする。
ただただ、僕の言葉は彼女の努力を無下にするような...否定するようなものだった。
違う、そんなんじゃない、そんなつもりじゃなかった。頑張った君を褒めて、可愛いって素直に言いたかった。

時間ばかりが過ぎてしまう、本当にもどかしい。
こういう時に限って僕は遠征で。
...しかも、いつもの
『僕がいないからって、適当な服を着ていたら駄目だよ?』
なんて、言えるわけがなかった...彼女の姿は完璧だったんだもの。


遠征は短期のものだったから、任務も問題なくこなせたし少しだけ近くの街へ寄ることもできた。
集合時間と場所を決めての自由行動を取ることにした僕らは各々気になる場所へと足を向けて散らばる。
そんな中でも僕は彼女の事ばかり考えていた。
どうしたら、彼女にお詫びができるだろう...心に作ってしまったであろう傷を癒してあげられるだろうと必死だった。

「...ん?」

ふと見えたお店。
そこはこの街の職人さんのものなのか、和小物が沢山置かれた所だった。
吸い寄せられるように店内へ入ると、所狭しと様々な品物が並べられていた。
縮緬でできた小さながま口やお手玉に鞄、筆入れ、桜や牡丹の描かれた綺麗な手ぬぐいに髪飾り。根付やお守りといった小物だけでなく日常生活で使えそうな物もある。
品揃えの多さに僕は夢中になって眺めていた。
その鮮やかに彩られた品々の中に、柄が少ない無地の縮緬で出来たものもあり、上品だが堅苦しさのない程良いものが並べられた一角を見つけた。

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