第3章 君ありて幸福
あいたいです
それでも、その六文字だけでも、いつもよりも元気のないその字体だけでも...その思いを汲み取るには充分過ぎた。
控えめな言葉に乗せて流れ込んで来たものは、思いのほか、大きくて。
指でなぞる度に彼女が抱え込んでいるものを伝えてくれるようで。
僕がいない、遠い遠い場所で懸命に立っている君の姿が......灯火が消えかかった瞳から流れる涙が見えて。
たまらなかった
酷く苦しかった
側に行きたかった
僕には現状何もしてあげる事ができないのだ
ただ黙って、君の帰りを待つことしか
『...君は、馬鹿だよ...』
普段から思っている事を表に出す事を苦手だと言う君は、こんなにも追い詰められているのにそれでも打ち明けることが出来ないだなんて。
もっと甘えてくれて構わないと伝えても、この六文字を伝えるのが精一杯だったんだろう。
でもね、君は知らないだろう
こうして君が気持を込めた言葉が僕に全てを教えてくれたんだよ。
僕らにもこうして、直接的でなく間接的に繋がるものがあったんだよ。
...僕も今、知ったんだけどね
今もまだ、零れ落ちそうな程の感情の波を1人抑え込んでいるのだろう。
その人知れず流し続ける涙で、弱々しい灯火を完全に消してしまうのだろう。
...そして生憎、僕の名前はその灯火を切り落としてしまうけれど、でも。
...今は、この”手”がある
鋭い刃でしかなかった頃とは違って、今はこの体が、思いやれる心がある。
燭台を切り落とすことしか出来なかった自分が、今ではそれを灯すことができるのだ。
『返事を書かなくちゃ、だよね』
消えてしまった彼女の心にもう1度灯火を。
暖かさで、冷たい涙が乾くように。
明るさで、道に迷わず真っ直ぐ僕の所へ帰ってくることができるように。
君が思いを込めた言葉が僕に全てを伝えてくれたのならば、僕が思いを込めた言葉もきっと全てを君に伝えてくれるはずだ。
...まあ、彼女は意図などしていなかっただろうけれどね。