第2章 『待ち合わせ』
『有栖川帝統』
珍しく奢ると言われた昨日の夜。
本当に大丈夫かなと首を傾げながらその誘いを受けた。
残業中降り始めた雨に心配になりながら終わらせた業務。
ロッカーの予備の傘も持ち外に出れば雨は本降りになっていた。
いつも待ち合わせているシブヤ駅前の犬の前。
屋根もないそこに走れば、濡れ鼠のグリーンのコートがそこにあった。
「帝統っ!」
予備の傘をさせば、それに気づいた帝統は私に向かって笑う。
「ケイタイ、充電切れちゃってさ。いつ来るかわかんなかったから待ってた。」
「せめて屋根のある場所に…」
鞄の中を漁りハンカチを取り出すと濡れてしまった顔や手を拭く。
「だってさ、俺が居ない時に夏乃チャンが来たらすれ違いになるだろ?」
「それでもっ…」
ハンカチで顔を拭っていた手を掴まれ、帝統が顔を上げた。
その目は真剣で、私の言葉も止まる。
「いつも待たせてばっかりだから、俺が待てる時は待ちたいんだって。」
たしかに…
いつでも待つのは私。
「それでも、私は帝統が大事だから無理して欲しくない。」
濡れた帝統を抱きしめれば冷たい体温が伝わってくる。
「家、帰ろ?」
「メシ…」
「ご飯は今度。今日はわたしが作る。」
「次、賭場ですっからかんにしちゃうかもしれねーぜ?」
「じゃあ明日の朝ごはんの買い出しで出して。」
「へいへい。」
いつもの調子で笑った帝統の声を聞き、安心した私は顔を上げ、帝統の腕を引きながら立つ。
そして、もうこれ以上冷たくならないようにと自分の手で冷えた指先を包んだのだった。
end