第2章 『待ち合わせ』
『山田二郎』
職場を出て何回目かのコール。
やっと出た二郎くんの後ろではざわざわとした音。
「あ、夏乃さん!充電切れちゃって今駅の近くのバーガー屋の3階にいる!」
「駅前ってあの交番近くの?」
「そうそう!席取ってあるから。」
「わかった。今行くね?」
居場所がわかりほっとすると私は二郎くんがいるというバーガー屋さんに向かう。
1階でコーヒーを買い指定された3階へ向かうと、壁際に目当ての人がいた。
「二郎くん。」
声をかければ私の方を見てにかりと笑う二郎くん。
机の上には食べきったバーガーの包み紙とポテトのケース、そして汗をかき下に水のシミを作る飲み物のカップ。
「残業お疲れ様、夏乃さん!」
垂れた目をさらに和らげふにゃりと笑う二郎くんを見ただけで、残業のイライラも薄れて行く。
「ありがとう、二郎くん。私こそ待たせてごめんね?」
「夏乃さん仕事だもん。しょーがねーよ。」
労わるように私の手を取りきゅっと握る。
そんな仕草ひとつでも私をメロメロにしてしまうのだから困ったものだ。
「でも二郎くん、ご飯食べちゃったんだよね…
ご飯行こうって話してたけど…どうしよう…」
どうしようか悩んでいれば、二郎くんは不思議そうに首をかしげる。
「夕飯…ってほど食ってないっすよ?オレ、腹減ってるし。」
え、これ、ビッグなバーガーですよ?
高校生の食欲おそるべし…
「でも、そろそろ高校生が出歩くには…な時間よ?」
「あー…俺は別にいいけど、夏乃さんにメーワクかかっちゃう?」
しゅん…として私の話を聞く二郎くんは、まるで捨てられてしまった小動物のよう。
「迷惑…ではないよ?」
「マジで!じゃあどこ行く?」
「じゃあ…うち、来る?」
どこに行こうか、なんて考える余裕もなく口から出た言葉。
まだ高校生だから…や、補導はまずい、とひねり出したこの答えが正しいかはわからない。
でも再び私を見た二郎くんの表情を見て、家に誘ったことを少しだけ後悔する。
「高校生だって、オトコだからな?夏乃さん。」
だって、私の左手を取り薬指の付け根に唇を寄せた二郎くんは、雄の顔をしていたから…
「っ、一郎くんには連絡入れてね?」
バーガーショップの片隅。
捨て台詞のようなこの言葉に、二郎くんはにかりと笑った。
end