第2章 『待ち合わせ』
『山田三郎』
急いで玄関まで走っていると守衛さんが私を呼ぶ。
急いでいるのにとそちらを向けば、弟だよと守衛室から三郎君が出てきた。
「守衛さん、ありがとうございます。」
可愛い笑顔で守衛さんに挨拶をし私の手を引くと、三郎君は「いくよ姉さん」と私に声をかけ職場を出た。
「…さぶろ…くん?」
「遅い。」
さっきの笑顔はなんだったのかと思うような、不機嫌顔。
「ごめん。」
「いち兄に早めに帰るって言ってきてるんだから。」
可愛い顔を不機嫌に歪め、私の前を歩く三郎くん。
その足は私の車がある駐車場に向かっていた。
これからご飯は難しいか…
流石に中学生をこれ以上連れ回すのはまずいし、家に送りとどけよう。
「そうだね、ご飯はまた今度にしようか。」
送るね?
そう言って駐車場に足を進め始めたけれど、三郎くんの焦った待っての声とともに私の足が止まり後ろからぎゅっと三郎くんが抱きつく。
「ごめんなさい…仕事だったのに…」
寂しそうな声。
そうだよね。
『待つ』ことはすごく辛いし寂しいこと。
「私こそ、待たせてごめんね。」
謝れば、さらにぎゅっと抱きしめられ、寂しかったことを埋めるように体を寄せた。
「ね、三郎。明日は学校は?」
「休み…だけど…」
小さく呟く三郎くんから離れ、私はスマホをタップする。
数回のコール音からのもしもしの声。
それに応答すれば、三郎くんの顔が真っ赤に染まった。
「ありがとうね、一郎くん。明日朝には送り届けるから。」
『了解っす。わざわざありがとうございます。』
「こっちこそありがとう。じゃあ三郎くんお借りします。」
じゃあねと切れば、嘘だろ…とでも言わんばかりの顔で私を見る。
「外泊許可、取れたよ?今日はうちでご飯食べよ?今から材料買ってご飯作るから。」
大人の特権よ?と笑えば、三郎くんは顔を真っ赤にしてわたしを正面から抱きしめた。
「いち兄と二郎にからかわれる…」
「じゃあ山田家に帰る?」
意地悪してそういえば、すぐに返事。
「帰らない。夏乃さんのところに行く。」
拗ねた子供みたいにぎゅっと私を抱きしめる三郎くん。
そんな彼の頭を私はそっと撫でた。
end