第2章 『待ち合わせ』
『飴村乱数』
待ち合わせ場所であるシブヤの駅前にあるコーヒー店の前に向かったけれど、乱数(らむだ)はいない。
帰っちゃったかな…
そう思った瞬間に鳴るスマホ。
画面を確認すればそれは待ち合わせの主からであり、待ち合わせをしたコーヒー店の中にいるとのことだった。
中に入れば目立つピンクが窓際の奥の席に座っている。
…その隣には、セクシーなお姉さん。
私に気づいた乱数はそのお姉さんに笑いかけ、そのお姉さんは去っていく。
「夏乃ちゃんこっち〜!」
そこら辺の女の子よりも可愛い顔で私を呼ぶ乱数。
待たせたのは私。
それなのにものすごく気分が悪い。
「遅くなってごめんなさい…残業で…」
「僕は大丈夫だよ〜♪お姉さんとお話してたしね〜」
「さっきの人…知り合い?」
「違うよー?さっき知り合ったの。」
作った服のモデルさんになってもらうんだー、と乱数は嬉しそうに笑う。
「ごめんなさい、帰る。」
乱数はデザイナー。
だから洋服のモデル、と称して女性の友達が多いのも知っている。
それでも、胸が痛む。
私との待ち合わせ中に女の子と話をしているなんて…
がたり、席を立ち私は乱数に背を向けた。
….が、それはできなかった。
私が立ち上がった瞬間、乱数が私の手を握ったから。
「逃がさないよー?」
乱数は自分の椅子から降りると私の背後に立ち、後ろから抱きしめる。
同じくらいの身長…いや、私よりも少しだけ大きい乱数は私の顔を覗き込むようにして、耳に声を吹き込んだ。
「"嫉妬"だろ?本当に可愛いやつ。」
いつもの声とは違う低い声。
声だけで私の身体は沸騰するほど熱くなる。
「っ…らむだ…」
乱数は私にだけ聞こえるようにくすりと笑うと耳の輪郭をれろりと舐めた。
「心配しないでよ?」
ちうっとリップ音を立て、私の頬に吸い付いた乱数はぴょんと飛び跳ねにかりと笑う。
「僕が1番だーい好きなのは夏乃ちゃんだから♪」
ハグー!と正面から抱きつく乱数の背中におずおずと手を回せば小さな低い声で乱数は言う。
「溺れるくらい抱いてやるから覚悟してなよ。」
ね?と体を離した乱数は口の端をあげて、笑った。
end