第2章 『待ち合わせ』
『碧棺左馬刻』
待ち合わせ場所である会社近くの海辺の公園。
電話をしながらそこまで走るが通じない、
早く早くと気が急いる時に限って変わらない信号。
やっと変わった青にヒールを鳴らしながら走る。
いつもの公園。
ないと思った車があった。
暗がりに見えるタバコの小さな光。
それを吸い気怠げに吐く姿は、とても美しかった。
「左馬刻…」
左馬刻のいるところまで走り寄り声をかければ私を一目見て白い息を深く吐き、赤い光はアスファルトに落ち、ぢり、と消えた。
きっと、ずっと外で待っていたのだろう。
足元には沢山の短い煙草が沢山散っている。
「遅え。」
赤い瞳が気だるげに私を見る。
「ごめんなさい、今日に限って残業で…」
ゆるりとした動きで私の方へと左馬刻が歩いてくる。
一歩、二歩。
怒られる、そう思って目を瞑れば降ってくるのは大きな手。
ぽんぽんと優しく頭を撫でられおずおずと目を開けば、目の前には赤い瞳。
「ちゃんと来たんなら許す。ほら、車乗れよ。」
いつも暖かい手が今日は冷たい。
待たせたことに申し訳ないなと思いつつ、顔に似合わず優しある左馬刻にくすりと笑いながら私は左馬刻の助手席に乗った。
「体、冷えちゃったね。」
そう、運転席に乗った左馬刻に言えば不意に名前を呼ばれそちらを向く。
一瞬だった。
いつも、左馬刻から香る香水が香った瞬間、後頭部をぐいと引かれ唇に熱い熱。
噛みつくような熱いキス。
息もできないような、苦い口づけに左馬刻のシャツを掴み、耐える。
唇が離れ、親指でぐいと私の濡れた唇をふき取ると、左馬刻は車のエンジンをかけた。
「これからお前が熱くしてくれんだろ。」
待たせた分期待してんぜ。
そう、小さな笑い混じりに言われ、一気に体温が上がる。
抵抗するかのように「ご飯…」と呟くけれど、デリバリーでいいだろと論破されてしまう。
「明日、休みだろ?寝かせねえから覚悟しとけ。」
「…ハイ。」
動き出した車。
助手席から覗けば、すっかり夜に染まったヨコハマの街がきらきらと輝いていた。
end