第6章 11月7日/松田※
3、4回程のコール音が鳴った後
呼び出しに相手が応じた
松〈どうした?こんな朝早くから〉
松田先輩の声を聞いて
目頭が熱くなった
『…っ…せんぱいっ…
…まつだ、せんぱいっ…!』
松〈おい、名前!どうした!
何があった!〉
ボロボロと涙が止まらなくなって
松田先輩が生きてる事に安心して
何でもない、と伝えようとしても
嗚咽で何も伝わらなくて
松〈今どこだ!〉
『…っ…い、えっ……』
松〈すぐ行くから動くんじゃねーぞ!〉
ぷつりと通話が切られ
携帯の向こうからツーツー、と
不快な音が鳴っていた
生きてる…
松田先輩が生きてる…
本当に嫌な夢を
見ただけだったんだ…
それでも目に焼き付いた
燃え上がるゴンドラ…黒煙…
脳から離れない恐怖が
私自身を襲った
体の震えが止まらない。
何分経ったのか分からないまま
時間が過ぎ、家のチャイムの
けたたましい音でハッとする
フラフラと覚束無い脚で
玄関まで辿り着きドアを開けると
走って来たのか肩を揺らして
荒い呼吸を整える松田先輩の姿
漸く引いたと思っていた涙が
再び溢れ出した
『ま、つだ…せんぱっ…!』
松「名前、一体何があったんだ!」
涙で視界が歪んで
ちゃんと顔が見えなくて
何度も何度も目を擦った
不意に片手首を捕まれて
体を引っ張られる
ふわりと抱き寄せられ、同時に
松田先輩の背中で支えられていたドアが
バタンと音を立てた
先程まで朝日が差し込んでいた玄関に
光が届かなくなり薄暗くなる
そんな事、どうでもいいと
私は目の前に生きて立っている彼を
精一杯抱き締めた
松「大丈夫だから、もう泣くな」
嗚咽の所為で上手く喋れなくて
私は何度も頭を縦に振った
優しく背中をさすってくれる
松田先輩の手が暖かい
恐怖が引いていき
次第に落ち着きを取り戻した
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