第1章 笑顔が美しい君
僕は玲奈と一緒に歩いていた。
彼女が足を止めたところには、暗い隠れ家みたいなバーだった。こんなところがアジトなのか。
『出久君、本当に良いの?』
彼女が心配そうな顔で聞いてきた。その瞳は潤んでいた。
「良いよ。それに、僕らは友達だろ?」
『うん……ありがとう』
僕は複雑そうな顔で呟いた玲奈にニコリと笑って見せた。
彼女の中では複雑だろう。連れ出すことの罪悪感と一緒に居てくれる友達が出来た喜びが混ざり合っているようだ。
『ただいま』
彼女と共に中に入ると、手を顔に装着した不健康そうな男が居た。
「玲奈、抜け出してどこ行ってたんだよ。しかも、男連れて来て……」
『人生初の友達だよ』
「はっ?」
手の男は僕を手の隙間から睨み付ける。
「僕は緑谷出久です。あの、無個性でもヴィランになれますか?」
「はっ?無理だろ」
手の男が否定した時だった。
「雑魚個性より、無個性の方が良いよ」
「あっ、お父さん!」
テレビモニターから聞こえた男の声に玲奈は反応した。
これが玲奈のお父さんなのか……。