第55章 正義 1
街はそれなりに整備されていたが、霧はかなり濃くなっていた。
「なかなかきれいな街じゃあないか。」
「あのレストランで、ホテルがどこか聞きましょう。」
私達は付近に車を止めて、レストランへと向かう。
今までの騒がしい街の雰囲気とは一点、霧の街はあまりに静かだった。
「いいか、みんな。パキスタンより西のイスラム世界じゃ挨拶はこう言うんじゃ。まずスマイルで…。」
おじいちゃんが自信たっぷりにイスラム流の挨拶を披露してくれたが、レストランの店主は速攻で店の看板をクローズにしてしまった。
完全に嫌われちゃってるじゃない…。
「ちょ、ちょいと物を尋ねるだけじゃ。この近くにホテルはあるかね?」
それでも店主は何も答えない。気まずい沈黙が私達の間を流れた。
「知らないね」と小さく返事をして親父さんは店の奥に戻ってしまった。
「挨拶の方法が間違っていたんじゃない?」
「あんたの発音が悪くてきっとよく聞き取れなかったのさ。あそこに座っている男に聞いてみよう。」
今度はポルナレフが道端に座っている男に声をかけた。が・・・。
「おいっ。お前、どうした!?」
男はポルナレフに肩をゆすられると、そのまま力なく倒れた。目を見開いたまま、口を大きく開けて死んでいたのだ。
「死んでいる!恐怖の顔のまま死んでいる!」
「一体どうして、こんな道の真ん中で…。そもそも、死因は何なの?」
「脳卒中か!?心臓麻痺か!?」
でも男の死因は、ただの心臓麻痺ではなさそうだった。
男の手には、発砲したての銃が握られていたからだ。
「自殺か?ピストル自殺!?」
「いや違う。ざっと見たところ、死体に傷はないし、血も全然出ていない。」
全然わからない。一体この男は、何に発砲して何が原因で死んでしまったの?
それに、人が倒れても何の関心も示さない街の人達に私は違和感を覚えた。