第54章 幕間 5
「ポルナレフ?」
ポルナレフが少しだけ寂しそうに見えて、私は無意識に私の髪に触れる彼の手に自分の手を添えた。
「この旅は危険を伴う旅だ。アヴドゥルのこともある。少しくらい自分の気持ちに正直になったって、いいんじゃねえか?」
「こ、この気持ちは、そういうのじゃないからいいの。」
「そんなわきゃねーだろ。」
ポルナレフは語尾を強めてそう言うと、少しかがんで私に目線を合わせた。
子供を見透かす親のような眼差しに、私は思わず目をそらす。
「あなたの言う通り危険と隣り合わせの旅よ。もし、私が思いを告げて、そのまま死んでしまったら?優しい花京院は私を好きでなくても、私に縛られてしまうでしょ?そんなことは、望んでないの。」
「じゃあ、好きってことには変わりねぇんだな?」
(その一言を聞くまで折れるつもりはないのね、ポルナレフ。)
私は心のなかで観念した。
「ええ、好きよ。みっともないくらい、好きなのよ。」
なぜか涙が出そうになって、声が震えた。
ポルナレフは小さい子供をあやすように、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「そっか、そっか。優しいし、頼りになるもんなぁ。」
そう言うポルナレフは、嬉しそうな顔をしていた。
「その気持ち、大事にしな。花京院のことも、うんと大事にしてやればいいじゃねぇか。」
「いいのかな…。」
「誰かを想うことは罪じゃあねぇよ。」
なんでこの人は、私が欲しかった言葉をこんな簡単にくれるんだろう。
あんなに思い悩んでた自分がバカみたいだ。
でもそれを認めてしまうのは悔しいので、結局私はいつものように軽口を叩いた。
「それで女帝(ハイプリエステス)に痛い目合わされたくせに…。」
「それ今言うか!?人がせっかくいい話してるってのに!」
「ふふふ、冗談よ。ありがとう、ポルナレフ。」
「そうやって笑ってろ。泣きたいときは、胸くらい貸してやるからよ。」
ポルナレフは立ち上がると、焚き火の方へと歩いていった。
(ありがとう、お兄ちゃん。なんてね。)
心のなかでもう一度お礼を言うと、私は眠りについた。