第53章 運命の車輪 5
「その…嫌でした?」
花京院はいたずらが見つかった子供ような口調でそう言った。
確かに、さっきの私の言い方は花京院のことを嫌っているように聞こえたかもしれない。
先程の態度を反省しつつ、私はできるだけ平穏を装いながら答えた。
「嫌なわけじゃないの。ただ、重たかったら申し訳ないと思っただけ。」
私の気持ちなんて知らない花京院は「良かった」と表情を和らげた。
嫌なわけないでしょ。その逆だから困るのにさ。
「アンナさん、そんな体勢だと疲れるでしょう?ほら…。」
私は、恥ずかしさからか前のめりになって無意識に距離をとったらしい。
花京院は私の腰に手を回し、ぎゅっと自分の方へ引き寄せた。
「もっとこっちに来てください。」
耳元で囁くようにそう言われて、顔中が一気に熱くなる。
鏡なんか見なくても、きっと私の顔は真っ赤だろう。
大胆不敵なこの男は、つくづく私の心臓に悪い。
「花京院!また私のこと、からかってるでしょ!」
「アンナさんの反応があまりにも可愛いので、ついからかっちゃいました。」
「な!?」
花京院は一人で舞い上がる私を見てクスクスと笑っている
もう絶対勝てる気がしない。
視線をそらすと、こっちをジロリと見ていたアンちゃんと目が合う。
彼女は何も言わなかったが、「完全に手のひらで遊ばれてるじゃない。」と言っていた。
そういう目をしていた、絶対。