第52章 運命の車輪 4
「みんな、大丈夫?」
「アンナ、手当はあとだ。それより…。」
『アイツを倒すのが先だ』と言わんばかりに、承太郎はホイールオブフォーチュンの方に視線を送った。
奴は大きなエンジン音を鳴らしながら、フルスピードで私達の方に突進しようとしていた。
「とにかくにまずは逃げないと!」
私達は、すぐ側にあった岩と岩の隙間に逃げ込んだ。
車よりも狭い隙間なので、突進しても入ってくることはできないだろう。
「これで少しは時間稼ぎできるかしら。」
「コソコソ逃げ回るんじゃあねーよ!ゴキブリか、てめーらはよぉ!」
ホイールオブフォーチュンは諦めるどころか、再び変形し岩を削りながら無理やり岩の隙間に入り込んできた。
何の時間稼ぎにもならなかったわね…。
私達は逃げるように、一斉に隙間の奥へと走る。
でもいくら逃げたところで、あのスピードじゃあ追いつかれるのは時間の問題だった。
「この壁を登るんじゃ!」
そう言うと、おじいちゃんはすぐ近くの壁を登り始めた。
こんな垂直の壁、女の私に登れるかしら…。
ソードマゼンダの風なら登れるだろうかと思案していると、突然体が宙に浮いた。
視界に入った黒いシャツで、ポルナレフの肩に担がれたのだと理解する。
「ポルナレフ!」
「アンナ。文句は後で聞いてやるから、ひとまず登るぜ。」
『ソードマゼンダで…』と言う前に、ポルナレフは私を肩に担いだまま崖を登り始めた。
私を担いでいるとは思えないスピードで、スイスイと上に進んでいく。
丸太のようながっしりとした筋肉に、ほんのり鼻をかすめるガソリンとコロンの香り。
車が大破したときにガソリンを浴びたのかしら…。
近すぎる距離と男らしすぎる匂いのせいで、変に意識してしまい頬に熱が集中する。
「熱い…。」
「緊急事態にわがまま言ってんじゃねぇよ。」
『暑苦しい』という意味だと捉えたのか、ポルナレフが呆れたようにため息をついた。
「…花京院が良いのはわかってるけどよ。」
「なにか言った?」
「なんでもねぇよ。」
ポルナレフがポツリと呟いた言葉は、ホイールオブフォーチュンのエンジン音のせいで聞き取れなかった。