第47章 女帝と水の聖杯 6
それからしばらくは、他愛もない話を繰り返していた。
アンナさんに聞きたい事はちゃんと聞けた。アンナさんも向き合って答えてくれた。
『気になるんなら、直接聞いてやれ。ああいうタイプは、真っすぐ言ったほうが響くと思うぜ。』
次は、僕が伝えなければ。
僕は意を決して、アンナさんに質問をした。
「へ、変な質問をするようだが、君は 僕に『ハニー』って呼ばれて嫌だったかい?」
「ハニー?」
予想外の質問だったのだろう、彼女は小首をかしげてキョトンとしていた。
でも、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「まあ、そりゃあちょっと恥ずかしいけど…。でも、花京院みたいなハンサム君に『ハニー』って言われて悪い気になる女の子なんていないわよ。」
「アンナさん。」
いつもよりも声が低くなる。
僕が疑っているように見えたのか、アンナさんは僕の方に膝を向けて座り直すと、少し真剣な顔で口を開いた。
「安心して、花京院。嫌ならちゃんとそう伝えてるわ。」
「嫌でも、君は言わないだろう!」
宥めるようにそういう彼女に、思わず声が大きくなる。
「大声を出してすみません。でも、ときどき君が無理して笑っているように見えるんです。僕らに心配をかけまいと、辛くても悲しくても君は助けを求めてはくれないだろう?君になんだか子供扱いされているようで、悔しかったんです。」
小説なんかで仲直りをするシーンを読んでいる時は『さっさと本音を打ち明ければいいだろう』と思っていたが、こんなにも難しいものだったんだな。
考えが全然まとまらなくて、ポツリ、ポツリとしか言葉が出てこない。
それでも、アンナさんは真剣な顔で僕の方に聞き耳を立ててくれていた。
「本当は、恋人でもない男に『ハニー』と呼ばれても良い気しないんじゃあないかって、心のどこかでわかっていた。でも、シンガポールで一緒に出掛けたあのとき、『ハニー』って呼んだら、それまで辛そうだった君が、嬉しそうに笑ってくれたから。もしかしたら、そう呼んでいれば君は笑顔になってくれんじゃあないかって…。君の気持ちも考えず、勝手なことばかりしてすみません。」