第46章 女帝と水の聖杯 5
「手紙?何のことだ、承太郎?」
不思議そうにしている花京院の横で、私は両手で頭を抱える。
そうだ!『死んだ』アヴドゥルに向けて手紙を書いたんだった…。
恥ずかしすぎて思い出したくもないが、どうせ誰も読まないと思って、かなり赤裸々にあれこれ書いてしまった気がする。
花京院のこともうっかり書いちゃってたよね…。
これはもう、人生トップレベルの黒歴史だ。
あれをアヴドゥルは読んで何を思ったんだろう。うわぁ…、再会したくない。
そこでふと私はある疑問が頭に浮かんだ。
私は、手紙をきっちり封筒に入れて承太郎に渡したはず…。
「待って。承太郎、あなたなんで手紙が4枚ってことを…。」
顔を上げて、それから全てを悟った。
承太郎ニヤリと笑って私の方を見ていたからだ。
「見たな!承太郎!!!」
私はズカズカと承太郎の方に歩み寄り、胸元を軽くグーで殴った。
精一杯にらみつけるが、承太郎は反省するどころが悪びれた様子すらない。
「やかましい。直接渡さねーで人を使うからだぜ。」
「そもそも、あんたが渡してくるから手紙をよこせって言ったんでしょーが!!!」
ああ、もう最悪だ…。
アヴドゥルにさえ見られたくない手紙の中身を承太郎にまで見られてしまったなんて…。
承太郎は抜け目のないヤツだって、なんで忘れてたのかしら。
顔を上げると、花京院は会話についてこれず困惑していた。そりゃあそうよね。
ごめん花京院。でもこれだけは、あなたに説明できそうにないわ。
カオスな状況の中、全ての原因である太郎は、突然私達に背を向けて歩き出した。
「ちょっと、承太郎どこに行くのよ!」
胸ポケットのタバコを見せる。
『タバコを吸ってくるから、その間に手当してもらいな』と目が語っていた。
気の遣い方間違ってるわよ、承太郎。。
そのままタバコを吸いに行くのかと思いきや、もう一度私の方を振り返った。
「ま、趣味は悪くねーと思うぜ。」
「やかましいわよ、承太郎!」
満足したのか、今度こそ承太郎はタバコを吸いに人混みの中に消えてしまった。