第46章 女帝と水の聖杯 5
「もうこれで追って来られないでしょう。」
そう言って花京院は敵のスタンド使いが走り去った方を見ていた。
私も同じように人混みの方に目を向ける。
アンナ幻覚を見せられた後だと言うのに、不思議と晴れやかな気持ちだった。
「ええ、そうね。」
今回は大きな怪我もなく勝つことができたけれど、二人がいてくれなかったら本当に危なかった。頼もしい仲間が一緒で本当に良かったと思う。
アヴドゥルが言ってくれた、『大切な仲間だからこそ背中を預けられるように』っていうのがようやく理解できた気がするわ。
「二人とも、本当にありがとう。」
「お安い御用ですよ。」
「ま、アンナ幻覚に絆されているようじゃ、アヴドゥルが浮かばれないもの。シャキッとしなきゃね。」
私はガッツポーズをして、笑ってみせた。
承太郎の方を振り返ると、神妙な面持ちで私を見ていた。
「どうしたの、承太郎。」
「…ずっと言いそびれていたんだが、アヴドゥルは生きてるぜ。」
「「え!?」」
一体、どういう事?
突然すぎる承太郎の独白に理解が追いつかない。
花京院も目を見開いて承太郎の方を見ていた。
「嘘でしょ、承太郎!だってあのときアヴドゥルはホル・ホースの弾丸に…。」
「ああ。確かにホル・ホースの銃に撃たれたが、弾丸は額をかすめただけだ。」
「そ、それなら彼は今どこにいるんだ?」
「俺とジジイで応急処置はしたが、重症だったんでな。追手のスタンド使いに知られないよう、秘密裏にSPW財団が治療をしている。言いふらすんじゃあねーぜ。」
アヴドゥルが生きている…。
ついさっきカップのスタンドの中でアヴドゥルが握ってくれていた手を見つめた。
彼は無事だったのね。本当に良かった。
ホッとしたことで、目頭が熱くなる。
しかし、こぼれそうになった涙は承太郎の一言のせいで完全に引っ込んでしまった。
「だから、手紙は4枚とも直接アヴドゥルに渡しておいたぜ。」