第43章 女帝と水の聖杯 2
「このカップは覗き込んだ者の魂を吸い取るの。そして、カップに入った者に、失った愛する人たちの幻覚をみせる。攻略法は唯一つ。その愛する者たちを自らの手で殺すこと。だから、どれだけ精神が強い者でも現実世界に戻ってこられなくなるのよ。 」
女はうっとりした表情をしながらカップを撫でる。
その姿に僕はカッとなって声を荒げた。
「アヴドゥルさんのことがあったあとで、何と卑怯な!」
このタイミングで、こんな敵が現れるなんて。人の心を弄んでいるとしか思えない。
「優しい優しい彼女なら、たとえ能力を知っていたとしても自力で戻ってくることは不可能でしょうね。そこで取引よ。この中に入って、彼女を救うチャンスを上げる。」
女はすでに勝ったと言わんばかりの表情をしていた。
「時間は30分。タイムリミットを過ぎればあなた達の魂もいただくわ。」
「取引なんざするまでもねぇ。てめーのカップを割って終わりだ。」
承太郎が再びスタープラチナを出したところを、女が手で制した。
「言い忘れてたけれど。もしもカップが割れたり、中の液体がこぼれたりでもしたら、アンナの魂は天に召されて戻らないわよ。承太郎、それでも私を殴れるかしら?」
アンナさんを救うのが最優先だ。
だが、このまま女の言うとおりに従うのも危険すぎる。
「僕ら二人が気を失えば、魂を吸い取る前に殺すことも可能だ。そうなれば、ジョースターさんやポルナレフを呼びに行くものがいなくなるがいいのか?」
「さすがに花京院、こんな状況でも私に取引を持ちかけるなんて。いいわ、中に入るのは、どちらか一人で我慢してあげる。そのかわり、タイムリミットが過ぎたら悲しみにくれるその顔をたっぷり拝ませてもらうわね。」
「好きにするが良い。」
女は僕を見て、ニヤリと顔を歪めた。