第43章 女帝と水の聖杯 2
「私の名はニーナ。あなた達と一緒にバスに乗っていた、ネーナの姉よ。スタンドはータロットー小アルカナの1つ。愛と絆の暗示を持つ水の聖杯(アクアカップ)。」
ニーナと名乗るその女は、堂々とした足取りでこちらに歩いてくる。
一歩一歩踏み出すたびに、真っ赤なサリーと大きな金色の耳飾りがゆらゆらと揺れていた。
「愛とは、すなわち悲しみ。食欲や性欲を満たせば、喜びは生まれる。理不尽があれば怒りを覚える。でも、愛がなければ悲しみは生まれない。愛するものを失って絶望にくれるその姿こそ、人間の中で最も美しい瞬間よ。この美学が坊やたちにわかるかしら、ふふふ。」
女は人差し指を口元に当て、口角を上げて目を細めている。
こいつ、狂っている。
歪んだ精神論と、それに似つかわしくない艶めかしい仕草に僕は首筋に冷や汗をかいた。
とにかく冷静にならなければ。
僕は肩を上げながら深呼吸しようと息を吸い込んだ。
「ん~、坊やたちの中に焦りと不安の色が見えるわ。二人ともアンナを深く愛している、そうでしょう?だから、彼女が戻らないんじゃあないかと心配なのね?」
「テメーは自分の心配でもしてな。」
そう言うと承太郎はスタープラチナを出して臨戦態勢に入る。
怒りのままに相手を殴ろうとする承太郎を、僕のハイエロファントが掴んだ。
「承太郎、早まるな!敵の正体がわからない以上、むやみに攻撃するのは危険だ。」
「花京院の言うとおりよ。このカップを見て?」
承太郎も僕も、女が手に持っているカップを見た。
「このカップの中の液体は、彼女の魂よ。」
ガラスでできたように、透明のカップだった。
カップと言うよりゴブレットに近い形をしたそれの中は、水のような液体が入っていた。