第42章 女帝と水の聖杯 1
アンナさんの吐息が耳に当たり、思わずゾクッとする。
ポルナレフは僕を咎めていたが、彼女の方こそ男性に対して距離が近すぎるのではないかと思う。僕に対しても、ポルナレフに対しても。
意図して彼女をからかっている僕と、無意識で人との距離が近い彼女では話が違うということくらいわかっているけれど、僕はそう思わずにはいられなかった。
「花京院、聞いてる?」
「は、はい。」
痺れを切らしたように声をかけるアンナさんの声で現実に引き戻される。
彼女の指は、前の席のジョースターさんと承太郎をさしていた。
「承太郎もおじいちゃんも体が大きいからさ。ふふふ…幼稚園児用の小さな椅子に大人が無理やり座ってるみたいでしょ?」
あまり無邪気に無邪気に笑うアンナさんを見て、自分だけがあれこれと意識しているのが馬鹿らしくなった。
確かに2m級の二人が肩を並べれば、一般的なバスの座席はあまりに窮屈だ。
僕も日本では小さい方ではないが、あの二人よりと一緒に座ることを思えば、まだ席を広く確保できるだろう。
クスクスと肩を震わせる彼女につられ、思わず僕も笑ってしまった。
「ノォホホ…。アンナさん、流石に失礼ですよ。」
「でも、花京院だって笑ってるじゃない。アハハハ!」
不釣り合いな二人の格好が、よほどツボに入ったらしい。
『あーもうダメ』と言って彼女は本格的に笑い始めた。
「やれやれ…。」
承太郎とジョースターさんにも会話が聞こえていたのか、二人は意味ありげな眼差しでこちらを見ていた。