第42章 女帝と水の聖杯 1
まもなく、バスはベナレスに到着しようとしている。
結論から言うと、僕はポルナレフに言われた話をできないままでいた。
「そう言えば、花京院は家族に連絡はしてるの?」
「いえ、今頃日本では大騒ぎになっているんじゃあないかな。」
「えええええ!?のんきなこと言ってる場合?大丈夫なの、それ…。」
「日本に帰るわけでもないのに、連絡をしても仕方ないさ。無事に帰れたら、両親にはきちんと謝るつもりでいるよ。」
「う~ん、大胆というか何というか…。」
「ふふふ。」
時折、こうやって他愛のない話するものの、肝心の話題には自分から踏み込む勇気が出なかったのだ。
最初の方は、背中をつついて僕を急かしていたポルナレフも、僕があまりに動かないので、同じバスに乗っている女性を口説き始めていた。
「女性のアンナさんこそ、ジョースターさんや承太郎が一緒に来ているとは言え、ご両親が心配しているんじゃあないですか?」
女の子が旅をするとなると僕なんかより大事じゃあないか、と軽く返事をしたつもりだったのに、アンナさんの表情はこわばっていた。
しまった、と思ったがもう遅い。
触れてはいけない話題だったのだと彼女の顔を見てようやく理解する。
「…あのね、花京院」
「おい、バスが到着するぜ。」
アンナさんの言葉は、承太郎にかき消されてしまった。
その後、すぐに下車をする準備に取り掛かってしまったので、アンナさんの話の続きは聞けないまま、ベナレスに到着しバスを降りた。