第42章 女帝と水の聖杯 1
僕たちはあれからベナレス行きのバスに乗ることになった。
先に乗り込んだ承太郎と、ジョースターさんは隣同士で座っている。
その後ろに、アンナさんがひとり窓の外を見ながら座っていた。
その目は、ほんの少し赤くなって腫れていた。
…ひとりで、泣いていたのだろうか。
(ほら、この機会にちゃんと話しとけ!)
ポルナレフが耳打ちして、僕をアンナさんの隣に無理やり押し込んだ。
軽く挨拶をしようと口を開くと、アンナさんが先に話し始めた。
「お隣同士、よろしくね。」
「こちらこそ。ところで、傷はもう大丈夫ですか?」
「おじいちゃんが手当してくれたから大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう。」
いつもと変わらない笑顔を向けてくれることに、ひとまず安堵する。
ほっとため息をつくと、ポルナレフが僕の背中を小突いた。
後ろを振り返れば『ほれ、早く話せ』と口パクしながらアンナの方を指差す。
わかっている、と彼に目で合図すると僕はもう一度ため息を付いた。
聞きたいことはたくさんあったが、突然に隣に座らされて何から話せばいいのかわからなくなる。
それにポルナレフに言われたことをアンナさんに話すにしても、僕には心の準備が必要だった。
どこから話し始めようかと悩んでいると、アンナさんが心配そうにこちらを見ていた。
「花京院、どうしかしたの?」
「い、いえ。何でも…ありません。」
「ならいいけど。それにしても、ベナレスまでかなり時間がかかるみたいだから、花京院が隣なら安心だわ。」
「…?どういう意味です?」
アンナさんの意図がつかめず首を傾げると、僕の耳元に唇と近づけて小さな声で言った。
「だって、ほら。前を見て。」