第38章 幕間 1
ジョセフが部屋を出ると、承太郎が目の前に立っていた。
表情にはださないが、よほどアンナの容態が心配だったのだろう。
承太郎からは、いつもよりタバコの匂いがしていた。
「なんじゃ、承太郎。今は中には入らせんぞ。」
ドア一枚挟んでいるとはいえ、廊下に出ても小さくアンナの泣き声は小さく聞こえている。
承太郎は「ああ」と短く返事をした。
承太郎はアンナが泣いている理由の察しがついている。
そして、それが必要のない涙だということも。
なぜなら、アヴドゥルは生きているから。
「それで、じじい。アンナのやつにはアヴドゥルのことを伝えてきたのか?」
部屋での様子から察するに、ジョセフが真実を伝えていないことはわかっていた。
でも、あえて承太郎は答えのわかっている質問をしたのだ。
必要以上に悲しませる必要はねーだろう、と言う脅しも含めて。
「気丈に振る舞っとったが、かなりショックを受け取る様子じゃった。そんな精神状態で、アヴドゥルが生きてるなんて伝えられんじゃろう。あの子を混乱させるだけじゃ。」
承太郎の気迫に負け、ジョセフはバツが悪そうな顔をした。
だが、ジョセフの表情を見て部屋で何があったのか察したらしい。
承太郎は、ジョセフを鋭い目つきで睨んだ。
「…てめー、誘惑に負けたな。」
凄む承太郎に、ジョセフは観念して両手を上げた。
そして、だってだって!と言い訳をするように口を尖らせる。
「さすがに、アンナ可愛い顔で自分から甘えてくれるなんて思わんじゃろう。わしだって、思わずニヤニヤせんように顔を引き締めるのに必死だったんだからな!」
だからそんなに怒らんでくれよぉ~、とジョセフは情けない声を出す。
涙すら見せない状態で甘えたことになるのか?という疑問を口にする代わりに、承太郎は大きなため息をついた。
こんなジジイの気まぐれで、アンナが泣くほど悲しんでいるのだと思うと承太郎は怒りを通り越して呆れた。