第35章 皇帝と吊られた男 3
「いいか!この場合だぜ!今の場合を言っとるんだよ!“スタンド”があるなら、“鏡の中の世界”だってあるだろ!」
「ないです。」
トラックを走らせながら、僕たちはハングドマンの正体について考えていた。
ファンタジーやメルヘンじゃあないのだから、鏡に中の世界などない。
“鏡の中の世界について”真っ向から否定する僕に対し、ポルナレフは興奮気味に声のボリュームを上げていった。
「あのなぁーー!」
「ん…。花京院?」
ポルナレフの大声に反応したのか、アンナが意識を取り戻した。
横を見るとまだ意識がはっきりしていない様子のアンナと目が合う。少し顔色が良くなった彼女を見て僕は安堵した。
「アンナ!気がついたのか?痛むところはないか?」
矢継ぎ早にポルナレフが心配の声をかけているが、彼女はいまいち状況をつかめていない様子だった。
「ここは?ゔうっ背中が…ってポルナレフ!あなた怪我してるじゃない!」
「おめー、人の心配をしている場合かよ!」
自分の背中の痛みよりも、目の前で怪我をしているポルナレフを心配しているのが彼女らしい。ソードマゼンダを出してすぐに治療に取り掛かる彼女を見て、僕は思わず頬が緩んだ。だがすぐに、彼女に告げなければならない事を思い出し、思わず唇を噛み締めた。それを見たポルナレフは、一瞬の沈黙の後、僕に代わって口を開いた。
「なあ、アンナ…。」
「いいの、わかってる。アブドゥルのことでしょ。気を失う直前に見えてたわ。」
「知っていたのか!?」
あまりにも落ち着いているアンナの返答に僕たちは目を見開いた。
アンナ顔を上げず、目線をポルナレフの傷口に向けたままだから表情はわからない。
しかし、彼女の声色は静かで、震えているわけでもなかった。
「アブドゥルも命を懸けた旅だと覚悟していたはずよ。彼のためにも今は敵を倒すことを考えましょう。」
そこでようやくアンナは顔を上げ僕たちを見た。その目には、決意を宿した力強さがあった。
一番つらいのは彼女のはずなのに、体の傷の心配をすることも、心の傷を慰めることも許されない。そう感じさせるほどに彼女は淡々としていて、僕とポルナレフの方が黙ってしまった。